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花に酔う
第4章 椿 *
「……私もこんなふうに――――」
「待って!」
思わず口を挟んでいた。
彼女が言おうとしていること。
もしかして……という不安が頭の中に渦巻いていて。
そこから先を言わせたくなくて。
「……待って」
言葉を止めた彼女に。
僕を振り返ろうとしないその背中にもう一度繰り返す。
でも、そこから先が続かない。
何を口にしたらいいのかわからない。
これからきっと、もっとよくなる。
彼女は彼を喪った哀しみから少しずつ立ち直ってくれるはず――――そんなさっきまでの考えは一瞬にして消えてしまった。
代わりに。
背中にじっとりと滲んできた、冷たい汗。
「……もう、行こう」
ここから離れた方がいい――――なんとなくだけどそう思った。
この花は彼女の何かを刺激する。
彼女を……負の感情へと引き戻す。
そんな、根拠のないよくわからない焦りに僕は追い立てられるかのように、もう一度口にした。
「帰ろう」
その、ぴくりとも動かない彼女の後ろ姿に。