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ラストチルドレン
第2章 捨てられた子供・気付かない親心

「あー、帰りたくねぇな」
「また来ようよ。何回でも」
「夏休み明け、俺黒人になってるかもな」
「何それ。そんなに焼ける?」
笑いながら海を見つめる達巳は、寂しそうで。
あたしも、なんだか帰りたくなかった。
他の人たちは、続々と海から上がってシャワー室に消えていくのに、あたしたちはまだ水着のままだった。
昼間の暑さが少しずつ引いて、涼しい風が肌を撫でる。
このまま、時が止まればいいのにと。
柄にも無く、そんなことを思った。
「なぁ、楓。“情けない男”の話聞く?」
「情けない男の話?」
「笑えるか分かんないけど」
「笑い話なの?」
さぁな、って言って達巳は目を閉じた。
あたしは、「聞きたい」
そう答えた。
「とある街に、一人の情けない男が産まれた」
その始まりと共に、あたしと達巳の時間は止まった気がした。
達巳が話す情けない男の話をあたしは波の音をBGMにして、静かに聞いた。
周りの雑音は消えていくのに、波の音だけは消えなかった。

