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ラストチルドレン
第3章 壊れていく日常・守りたいもの

二人で笑い合い、優しい時間が流れる。
こうしていると、あたしたちは一年前のまんまで。
本当に恋人同士なのか、忘れてしまいそうになるくらいごく自然の距離感を保っている。
それでも、どちらかが求めればやがてそれは恋人同士、独特の雰囲気に包まれて。
お互い目を瞑り、キスをした。
重ねた手は、相手の体温を受けてそれさえも愛しく感じてしまう。
もっとこうしていたい。願えば願うほど、この空間が邪魔をする。
ここが、達巳の部屋なら。
誰も来ないという保証がある空間なら。
もっと、あたしたちは淫らに求めあっただろう。
鴉が鳴く。風が吹く。
どこからか、金木犀の香りがした。
唇を離し、お互いに目を合わせる。
それだけで、幸せだと思えるから恋は不思議だ。
一人では味わえない幸福感。
だから、皆。誰かを求めるのだろう。
それがあたしにとって、達巳だっただけのこと。
「そろそろ、行こっか」
「…そうだな。もう皆帰ったかな」
制服の埃を払い、錆びた金属の音がする扉を開ける。
「最高の文化祭にしような」
夕陽に照らされた達巳の横顔をあたしは忘れない。
こんなにも、愛しい笑顔が咲いている。

