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呪いのしるしを、君の体に。
第8章 8
登場人物は、若い女性。
付き合っている人がいるが、関係が良好ではない。
特に、肉体面においての不満を抱える。
メインキャラクターの一人、壮年の男性。
結婚しているが、とある衝動を抑えられない。
他にも色々と細かい事が書いてあった。
初めて見る作家の構想に、ことりは胸がときめいた。
「僕はね、プロットではものすごく細かいことまでは書かないんだ。
その代わりに、描き始めて、登場人物たちが勝手に動き始めたら
それを追うように書く…俺は、登場人物たちに自由に動いてもらうんだ」
その眼差しは冷淡でありながらも、優しさと平等さを兼ね揃えていた。
そして、この先生の作品の登場人物が、リアルに生き生きと描かれるのは、
この先生だからこそなのだと、改めてことりは感心した。
「でね、ことり君。
この子、この若い女性のイメージが、君にぴったりなんだ」
「え? 私?」
そうだよ、と高槻はプロットをことりの手から離す。
「彼氏がいるのに他の男に手を出されちゃうところとか
君にそっくりじゃないかい?」
「いや、だって私は…」
アルバイトでお金が欲しい。
最初はそうだった。
だけども、いつの間にか、高槻に主導権を握られてしまっていた。
ことりは言葉が詰まって出てこなかった。
登場人物に似ている事が、あまりにも嬉しくなかった。
「アルバイトだもんね。
でもね、お金と理性の狭間で揺れ動く
君の心の内側は、僕にとって興味深いんだ。
協力してくれるよね?」
高槻からは柔和な笑顔とは裏腹に
有無を言わせない圧力を感じた。
「きちんと仕事はしますよ。
でも、これ以上のことは…その…」
「協力してくれるなら、バイト代弾んでもいいのだけれど。
というか、ことり君は一度契約違反した身だからね…解雇しても…」
「それはダメです!」
『解雇だけはダメ!』
ことりはきりりと高槻を睨みつけた。
じゃあ決まりだよねと高槻がパソコンのボタンを操作する。
「契約書の書き直しだ。
作品は1ヶ月じゃできない。
夏休み期間、ここに居るように」
判子を持ってくるように言われて
ことりは解雇を恐れて、よく読まないままそれに判子を押した。