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呪いのしるしを、君の体に。
第9章 9
『なんなの、もうっ!』
あわてて別荘の外へと飛び出したことりは、うっかりエプロンをつけたままだった。
外は真夏。それでも涼しい高原の爽やかな風が吹き抜けていた。
別荘エリアは、特に木々に囲まれているために涼しい。
その木漏れ日が溢れる木立の中を歩いて、大通りへと向かう辻にポストがある。
何とも爽やかな気持ちになって、ことりは気分良く歩いてポストへと向かった。
伸びをして、腕を回すと、凝り固まっていたのかミシミシと骨が鳴った。
いつセクハラをされるか分からないので、少しばかり緊張していたのかもしれない。
ふいに、高槻のキスの舌の滑らかな感触を思い出してしまい、お腹の芯が熱くなるのを感じてあわてて深呼吸をした。
このままでは、高槻の思い通りになってしまうから、しっかりと気を引き締めないとと自分に言い聞かせた。
「そもそも、お仕置きってなによ、変態」
高槻のお仕置きは甘美な罠であり、ことりの理性を揺さぶる。
彼氏がいてもいなかったとしても、好きでもない人と肉体関係を持つなんてあんまり良くないと思っていたことりにとって、今の状況はモラル違反にしか思えなかった。
その別荘への道を一台のタクシーが通過する。
ポストに着いたときにすれ違った。
あまりよく見えなかったが、ことりより少し歳上に見える青年が乗車していた。
「あの人も、別荘に住んでいるのかな」
なんの仕事している人なんだろうな、と呑気なことを考えながら帰宅すると
先ほどのタクシーとまたすれ違う。
乗車していないので、近くの別荘で降りたのだろう。
「戻りましたー」
ことりが玄関のドアを開けると、ビジネスマンが履くような革靴が揃えて置いてあった。
お客さんかな、言われていないけどと思って1階のリビングへと向かうと
先ほどタクシーに乗っていたであろう青年が立っていた。
「ああ、おかえりことり君」
コーヒーカップを2つ手にした高槻が、にこやかに出迎えた。
青年はことりに気がつくと、ぺこりと頭を下げる。
「先生、来客なんて聞いてないですよ。私がやりますから」
ことりは慌てて洗面所へと行って手を洗って戻る。
リビングのソファに、2人は腰掛けていた。