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知代の性活
第9章 十二月 歌うためなら、性を、体を
「きゃっ…!」
「大きな声出しちゃだめだよ。店のスタッフが来ちゃうよ」
「あ、あの…」
「さあ、オーナーにお礼してあげて」
「お礼、ですか…?」
「そう。お礼にキスしてあげて」
「えっ!?」

 言われて知代は反射的にオーナーへと目を向ける。

 名前は…たしか才藤といったか。
 重倉や店のスタッフからはオーナーと呼ばれていて、知代もすぐに名前を思い出すことが出来なかった。

 それくらいに存在感のない男だった。

 特に高くも低くもない身長。体は鶏がらのように細い。
 年齢は重倉よりも上のようだが、血色の悪いその顔から年齢を読み取るのは難しかった。
 度の強い眼鏡をかけ、秋葉原にいそうなタイプといえばそうかもしれないが、特徴と言えばそんな程度だ。

 ただ、経営の腕は確からしい。
 秋葉原のメイン通りからは外れているとはいえ、自分の店を持っている。
 むしろ、メインから外れた立地にも関らず店の経営が安定しているというのは、才藤の腕によるところが大きい。

 今日は白いYシャツにジーンズと、服装もありきたりだ。

 そんな男にキスをしろと言われ、知代は戸惑う。

 キスくらいなら、と思うが、得体が知れなくて気味が悪くもある。

 ここでキスくらい構わない、と思ってしまうところに知代の悲しさがある。
 散々男に力ずくで犯され、知代の倫理観は著しく目減りしている。

 知代は言われるまま、ソファに座る才藤に顔を近づけ、そっと唇を重ねる。
 血色の悪い唇は、薄く冷たい。

 ゾワリと背筋が粟立つも、思いのほか強い力で抱きすくめられ、激しく舌を吸われた。

「ん…んんっ…」

 才藤は長い時間をかけて存分に知代の舌を味わって、やっと口を離した。
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