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知代の性活
第10章 一月 乱れる姿を自分で見ながら
 一月からのステージに向け、知代は新曲を定期的に作るようにと言われている。
 知代の得意なバラードもいいが、客を沸かせるアップテンポな曲ももっと歌えるようにならなければいけない。

 ボイストレーニングは年明けの七日間は、トレーナーの正月休みのため行われない。

 一週間も声を出さないと、発声が鈍ってしまいそうな気もするし、新しい曲も歌いこまなければいけない。

 高田馬場の駅から数分歩いた先にある貸しスタジオ。
 芸能事務所や歌手の養成所などに所属していない知代は、いつもここで講師と一対一の個人レッスンを受けている。
 トレーナーは女性で、知代と声質が似ているせいか、レッスンは分かりやすく、効果も実感しやすかった。
 大手の養成所で、他のたくさんの生徒の中に埋もれてしまうよりは、こうやって親身になってくれるトレーナーに師事することが出来て幸いだと思う。
 唯一大手に負けるのは、業界内のオーディションの情報などが入ってきにくいことくらいだろうか。

 このトレーナーは、もう結婚して小学生の子供もいる。
 今までも、正月や夏休みになると、レッスンがない時があった。

 今まではそれでも構わなかったが、今回は定期的に出演させてもらえるステージの初回が控えている。
 あまり得意ではないアップテンポの歌も歌わなければいけないし、新しく作ったその曲にも自信がない。

 不安がいっぱいでじっとしていられなくて、知代は仕方なく一人でスタジオに篭ることにした。

 さすがに新年を迎えたばかりのスタジオは空いていた。
 本格的に動き出すのは来週以降だろう。
 この日も、何組かの予約は入っていたが、いつもと比べてずっと少ない。

 昼過ぎにスタジオに入り、顔見知りの管理人から鍵を受け取る。

 管理人は、続木という名の、五十代の男。
 このスタジオの経営者ではなく、あくまで雇われ管理人だ。
 経営者はおそらく今頃どこか南の島にでも行ってるんだろう、と正月休みを与えられなかった続木は不機嫌さを隠すことなく知代と向き合った。

 それでも知代の、屈託のない笑顔にほだされ、少しだけ態度を柔らかくすることが出来た。

「今日は夕方まで誰も来んから。今の時間は他に利用者もいないから好きに使うといい」

 つい、言わずもがなのことまで言ってしまったのだった。

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