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知代の性活
第10章 一月 乱れる姿を自分で見ながら
 まずは発声練習から。もう少し体が温まったらギターを出そう。

 知代は大きく息を吸い、体中を響かせて声を出す。
 そうして声が伸びてきたのを確認してから、新曲の練習に入る。

 アップテンポの曲で、キーも高め。
 無理なく出せる音域のはずだが、その音がずっと続くと辛くなる。
 
 どうにも上手く歌えなくて、何度も繰り返し練習し、疲れて休憩にすることにした。
 
 先程作った暖かいお茶はもうすっかり冷めてしまっている。
 動いて声も出して、少し汗ばんだ知代は、冷たいものが飲みたくてスタジオの廊下にある自動販売機へと向かう。

 冷たいレモンティーを買って戻る途中、退屈そうに煙草をふかしている続木が目に入った。
 続木もこちらに気付いたか、視線を送ってくる。
 
 ペコリ、と知代が頭を下げると、続木が声をかけてきた。

「調子はどうかい?」
「あ、はい…なかなか上手くいかなくって。高い声が上手く出なくて」

 続木は灰皿に煙草を揉み消すと「高い声か」と呟いた。

「さっき扉の窓から見とったが、すぐに顎が上がる。それじゃ高い声は出ん。
 あと少し体が硬いな」
「体が…?」

 知代はドキリとして問い返す。
 長年教えてもらっているトレーナーに、つい最近指摘されたばかりのことだ。
 それを目の前のこの男は一目で言い当てた。

 改めて続木に目をやる。
 今まではトレーナーと一緒に来ていたから、管理人など気に留めたことなどなかった。
 いつも混んでいるスタジオで、いつも忙しそうにしている無口なおじさん、というくらいの印象しかなかった。
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