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知代の性活
第10章 一月 乱れる姿を自分で見ながら
 年の頃は五十を越えたあたりだろうか?
 背丈は知代より頭ひとつ高い程度。男性としては相当小柄だ。
 その分、とは言えないが横にでっぷりと膨れている。

 知代の知っている男でいうと、新堂という雨の日のライブで襲ってきた男がいたが、その新堂よりももっと醜い太り方をしている。
 新堂はキャンプ場を経営する傍ら、地域のサイクリングクラブに若い女性を目当てで通っている。
 そのせいか太っていても鈍重な感じはしないが、目の前の続木の太り方は、ただただ不摂生がたたって脂肪を溜め込んでしまったような太り方だ。
 額が広く、髪の毛も相当薄くなっている。
 目は小さく小動物を思わせるが、草食系の動物ではなく、肉食動物の食べ残しを狙う動物のような、暗い光を宿している。

 ただ、今のやり取りから知代は、もしかしたら歌の心得のある人なのではないかと思った。
 見た目の偏見さえ取り除けば、低くてよく響くいい声をしている。
 
 今日はトレーナーがいなくて、正直行き詰まりを感じていた知代は、思い切って声をかけてみた。

「あの、管理人さんって…もしかして歌を歌ってた人…ですか?」

 歌手ですか、と聞こうとして迷った挙句「歌を歌う人」という曖昧な聴き方をしてしまった。
 目の前の男の発する雰囲気は、明らかに「歌手」というようなものではない。

「昔な、少しだけ。ちっとも売れやせんかったけどな」

 そんな知代の迷いなど気が付かず、遠い目をして続木は言う。

「そ、それでしたら…あの…今日、私のトレーナーさんがいなくて、困っていて」
「うん?」
「その…少し、見ていただけないか、と」
「俺に講師の真似事せいと?」
「あの…ご迷惑でなければ…やっぱりお忙しいですよね」
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