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キミといる場所
第2章 cafe cocoli
食後のコーヒーが出てきた。
いい香り。
首筋から肩にかけてへばりついた疲れの塊が、
鼻から入った芳香で溶かされていくようだった。
心地よさに脱力しそうだ。
いかんいかん、帰らなくては。
時計を見ると閉店時間を過ぎていた。

「ごめんね、長居しちゃって。それからお手数かけちゃったことも」

「いいえ、こないだのお礼してなかったし、
有り合わせメニューしか出せなくて…」

財布を取り出した私は、支払いを頑なに拒否された。
結構がんこなのかな?

「じゃあね、コーヒー代だけでも受け取って。商売なんだから」

まだ辞退の言葉を言いたげだったが、折れさせた。

「ありがとうございました」

扉を開けてくれる。


「今日、来てくれて嬉しかったです」

扉を押さえた姿勢でそう言われ、私は思わず顔を見上げた。
間近に見る長谷川くんの、
夜の色で陰影のついた顔はゾクリとするほど色っぽかった。

「オープン以来お見えにならないから…
お気に召さなかったのかなぁって気になってました」

なんなんだろう、胸の奥でキュ…って音がした。

「ごめんね。ただ忙しかっただけだから!ピクルス、すんごい美味しかった!」

バカみたいに早口になってしまった。

「それじゃ、おやすみ!」

「おやすみなさい、気をつけて」

バカみたいに早足で駐車場に向かった。

なにしてんの、私。
イケメンの営業トークにときめくほど、若くも無知でもないはずだ。
エンジンをかけてから深呼吸しアクセルを踏むと、
視界の隅でお店の灯りが消えるのが見えた。

またも聞こえてきそうな、キュ…を聞かないよう、
ステレオのボリュームをあげて走る。

その胸の音がなんなのか
知らないほど若くはなかったし、
知ったところでどうすることもできないほど
私は若くなかった。
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