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キミといる場所
第7章 変化の先に待つものは
「マスター、お会計してちょーだい」

先ほどの老人が席を立った。

「あ、この饅頭みたいなのももらってくわ」

饅頭!
貴子さん謹製のマフィンのことだろか。

「どの味の饅頭がいいですか?」

長谷川くんの対応もおかしい。
笑いがこみ上げてきて肩のチカラが抜ける。

「社長、私も社長との現場は楽しいです。
未熟な私に現場のイロハを教えてくださったのは社長ですし、とても感謝しているんです」

「いやいや」

「嫁にはなれませんが、この先も良き仕事のパートナーとして今まで通りのお付き合いをさせてもらえたら…」

「いやもうそれはもちろんです!こちらこそです!」

すっかり態勢を立て直してる…大人だなぁ。

「本当は…こんな風に告白しようなんて思っていなかったんだよなぁ」

「はい?」

「さっき土産を持っていったでしょ。その時に菜緒さんの椅子に膝掛けがかけてあって…」

その膝掛けを見た瞬間、スイッチが入ってしまったのだとか。

「伝えなきゃ!って思っちゃって、慌ててスーツに着替えて飛び出したんだけど、事務のおばちゃんが『出入りですかっ!?』なんて言いやがって」

俺もうそんなヤンチャはしてないし、わはは!
と笑う健やかさに、私のトラウマをぶつけたらどう反応するのか。
強くたくましく会社を切り盛りしている彼ならば、私の心もカラダもまるごとすっぽりと包んでくれるだろう。

「膝掛けスイッチですか」

物には持ち主の記憶や感情が残ると聞いたことがある。
木戸社長に伝染するほど強く、
私は長谷川くんを求めていたのだとしたら、
なんだか怖いわ。
花穂ちゃんに私の気持ちがバレるのも時間の問題か。

当のご本人には伝わっているのかしら…。

cocoliを出たところで木戸社長に、手を出してくれと言われた。
差し出した右手を両手で包み

「これからもよろしく!」

なんて言われると、ほんの少しやるせない気持ちになってしまう。

ゴツゴツとした大きな手のひらは、
文字通り『体をはって』働いてきた人の手だ。
この実直そのものの手のひらの中で、
なんの迷いも不安もなく暮らすのも
悪くなかったのかもしれないね。

不埒な思いを振り払って事務所に向き直ると、
ガラス窓に
花穂ちゃんが
張り付いてるー!
こええええええ!
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