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曖昧なままに
第10章 密かに去って
「やんっ! いっぱい……出てる」

 白濁を舌や胸元で受け止めて、俺の射精を奈央は歓迎するように微笑む。

 その姿を愛美と思わず重ねそうになり、俺はそのイメージを即座に打ち消す。

「ね、私の胸……どう?」

 果てたばかりの陰茎をねっとりと口で綺麗にし、奈央はそんなわかりきったことを訊く。

「最高だよ。だから――お礼をしなくちゃな」

 俺はそう言って、湯の中の奈央の股間に手を伸ばした。

「あ――!」

 ピクッとした敏感な反応。

 触れた右手の指先には、ぬるぬるとした潤滑液の感触。

「もう、急に触らないでよ」

「悪い。でも、奈央の――濡れてる」

「そ、それは……」

「自分でも、感じてたのか?」

「乳首で擦ったりした時……ちょっと」

「じゃあ、攻守交代だ」

「えっ?」

 俺はザブンとバスタブに沈むと、今度は逆に奈央の身体を湯に浮かべた。そして淵に背を凭れさせ脚を大きく広げると、奈央の股間を貪ってゆく。

 舌と指を用いて、もうしっとりとしている秘所を責めると。

「ああ、うっん……もう……そんなに」

 奈央は顔を赤らめて、早くも快感に酔いしれようとしてくれていた。

「……」

 不満など、ある筈もない。奈央のその顔を眺めつつ、俺はそう実感する。

    ※    ※

 西河奈央――彼女は俺などには勿体ない女性だ。そこに生じた俺の引け目すら、奈央は一笑のままに消し去ってくれている。彼女が俺を求めてくれるのなら、全力を尽くして応えるべき。

 否、そんな風に肩肘を張るのも違うのだろう。あくまで自然体であり、それで側に居ることができるからこそ俺は……。

 この先、奈央と再婚するのかなんて、まだわかりはしない。しかし彼女と出会い剰え付き合えたことは、それまでの自分を思えば至上の幸福に違いはなかろう。

「……」

 日曜日の午後のショッピングモール。珍しく買い物に出かけて来た俺は、フードコートにてコーヒーブレイク。そうしてボーっとした時、ふとそんなことを考えていた。

 最初からわかっている。俺が気にかけているのは、奈央のことではない。つい頭を過るのは、愛美のことなのだ。

 しかし、愛美は既に去り。俺も奈央との付き合いを決め、もう断ち切ったはず。だのに未だ、それを気にする。何度も繰り返すように、奈央に微塵の不満も感じてはいない。
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