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曖昧なままに
第13章 忌むべき過去(愛美の独白)

「――愛美っ!」

「うっ!? んんっ――」


 やがてそれは――私の小さな口の中で、遠慮なく弾けていった。

 それはもちろん、味として覚えるものではなく。けれど、ドクドクと注がれゆくものを受け止めて、私はとても愛おしく感じた。

 全て吐き出されるのを待ち、私はちゅぷっとその先端を口から解放する。

「ん……ああ……」

 私は水を掬うようにした両手に、口の中のものをだらりと垂らした。そして自分の手柄を確認するように、その白く濁った液体を満足そうに見つめる。

 そんな私の様子を見て、柴崎さんが言った。

「愛美は――凄いな」

 その一言が、また私を歓喜させている――。

    ※    ※

 私が学校に行くようになったのは、そんな頃だ。季節は初冬へと移り変わっている。

 いじめていたクラスメイトたちは、私を怪訝そうなな顔で見ていたけど。そんなことも、既に気にはならなくなっていた。私には彼女たちのすることが、とても幼く思えて。それからは何をされても、微笑を浮かべることができた。

 だって私は――大人の男を満足させてあげられる。柴崎さんとのことが、私の中で奇妙な自信へと繋がっていた。何処か超然とした私の様子に、いじめてた子たちも張り合いを失ったのだろう。それからは無暗に、私に干渉してくることはなかった。

 柴崎さんと母の関係は、徐々に悪化しているように見える。いけないとは思いつつ、私は密かに喜んでいたのだろう。

 全てがいい方向に転がっていると、私はそんな錯覚をしていた。

 当然だけれど、そんなのは間違いに決まっている。でも、自分の世界を狭めてしまっていた私には、それがわからなかった。

 母と柴崎さん――そして、私。その三人だけの矮小な世界しか見ていなかった――その弊害。

 程無く――私はそれを思い知ることになった。


 それはある夜――柴崎さんの一言より始まる。

「愛美ちゃん……悪いね。また、お母さんと喧嘩しちゃってさ」

「ふふ、また愛美に慰めてほしいの?」

 悪戯っぽく、そう言うが。そんな私を諭すように、柴崎さんは静かに話した。

「そうじゃなくてね。もう、愛美ちゃんも――あんなこと、忘れた方がいい。まあ今更この俺が、言えた義理じゃないんだが……」

「どうして?」

「おじさん、な。この家を出て行くんだよ」
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