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新月
第5章 透吾



美月の部屋までは、何度か、廊下を曲がらなければいけない。


チヨは、誰にもぶつからないように、角は特に慎重に曲がった。




「フゥ…。」


少し息を吐いた時、



「どうしたんだ?」



いきなり、曲がり角から声がした。


「きゃっっ!!」


驚いて、両手に持っていた御膳が傾く。

(こぼしちゃうっ!!)


そう、思った瞬間、自分の手に誰かの手がかぶさり、御膳は少し揺れただけで、こぼすことにはならなかった。


「あっぶねぇなぁ。何してんだよ。」


チヨの頭一個分上から、男の声がする。
その声の主を、チヨはよく知ったいた。



「透吾様……。」

透吾は、藤木の息子で、美月の弟になる。
姉弟だからか、美月と似ていて、色は白く、サラサラの黒髪だ。



見上げると、切れ長の目と、視線がぶつかる。


「…申し訳ありません…。」


チヨは恥ずかしくて、下を向いた。


自分の手は、透吾の手の中だ。

チヨは、かぁぁっと頬が染まるのを感じた。



「何?

お前、今日からなの?」


「はい…。」


声が小さくなってしまう……。

下を向いたままではあるが、耳まで赤くなっているのがわかる。



「ふぅん。」



そういうと、透吾はすっと、手を離した。

(あっ……)


チヨは、手が離れたことを少しがっかりし、
しかし、今は、美月に朝食を持っていかなければと、思い直した。


「失礼します……」


チヨが、進もうとした瞬間、

透吾は、スッとチヨの耳の側まで顔をよせて、



「………また、遊んでやるよ………」



「ひゃっ……」


透吾は、そのまま、廊下を歩いていった。



(透吾様………)


鼓動が高鳴るのを抑えながら、透吾の後ろ姿を目で追った———。




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