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そして、花開く
第8章 ~ 7 ~
『俺は…、今まで人を好きになったことがありません…。人を好きになるという想いも、良く分かりません。誤解を解いてもらいましたけど…正直な所、清姉の事はシスコンと清に言われてた位だし、ずっと一緒に生きてきたから、多分清姉の事は好きだったのだろう、位にしか考えませんでした』
『…まぁ、清貴達から聞く話では、お前があの姉弟を大切にしているんだろうな、というのは伝わる』
顔を少し上げて、大樹を見る。
その言葉に小さく聡が笑った。
踵を返して、ベランダへ行く。
清貴が枯れた所を摘んでくれたが、まだ枯れた所は残っている。
しゃがみ込んでペチュニアを弄ると、後ろに大樹の気配がした。
『母は、まだ俺が小さな頃に施設へと俺を預けました。来るなと言われたら、嫌われたくなかった俺は、一歩も動けませんでした。何度も呼んだけど、振り返りもせずに、母は去っていった。だから思うんです。人を好きになる事は…、いつか離れていくかもしれない赤の他人に思い入れを持つという事は、物凄く不毛な事なんじゃないかと』
ペチュニアは枯れた所を摘んでしまうと、鉢の半分にも満たない程に枯れてしまっている。
きっとこのまま枯れていくのだろう。
人の心も同じだ。
離れていく人の心を、掴むことは難しいと聡は知っている。