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上野んちの親父が死んだ
第1章  
 玄関のドアノブに手をかけても、上野は何も言わなかった。
 俺は黙って振り返り、俯き続けている上野をじっと見つめた。


「住所とか・・・また落ち着いたら教えてくれな」


 施錠を外す音が静寂に響いた。
 右手をロックからドアノブに戻したとき、俺はスマホを家に忘れてきたことをもう一度思い出し、彼女の怒った顔を想像して憂鬱になった。

 帰ったらすぐ電話して、ひたすら謝ろう。

 そんなことを考えながらドアを開けたとき、背中のうしろから上野が「ねぇ、カッちゃん」と俺を呼んだ。


 もう一度振り返ると、上野は玩具の山から小さめのボードゲームを拾い上げているところだった。


「これ、いる?」


 俺は何度か瞬きをした。
 上野は一度も遊んだ形跡のない真新しいボードゲームのパッケージをじっと見つめていた。
 唇の隙間から早朝の涼しい空気が口の中に入り込んで舌が乾き、上手く言葉が出てこなかった。


 何も答えられずにいる俺を前に上野はボードゲームを脇に抱えると、今度は別の、キリンのかたちをしたプラスチック製の人形を拾い上げ、先ほどと同じ言葉を俺に繰り返した。


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