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上野んちの親父が死んだ
第1章  
「え、う、上野・・・?」
「だから自分に何かあったら、部下の人に私を・・・」


 エンジン音が近付いてきて、じきに音が止む。


「ちゃんと面倒みてくれるようにって、書面に残して・・・」
「書面って・・・?」
「私が懐いてたから・・・ちいさいときは私に優しかったから・・・お母さんが出てってからみたいに、怖い顔して怖いこと言って私の身体さわってきたりしなかったから・・・」
「かっ・・・から・・・?」
「お父さんは何も知らないから・・・もし自分になにかあったら財産を全部あげるから敦美をって・・・」


 乱暴にドアを閉める音が、玄関に近付いてくる足音に変わるまでに、そう時間はかからなかった。



「え・・・う・・・、部下の人に上野を・・・?」
「家族にって・・・私を・・・財産を全部あげるから・・・って・・・」



 俺はそれ以上聞けなかったし、上野もそれ以上、俺に言えなかったのだと思う。

 ドアの細長い摺りガラスから黒い影が覗いて見え、同時にチャイムが鳴った。
 上野は喉をひっと鳴らし、ズルズルと床の上にへたり込んだ。
 ドアの向こうから「敦美?こんなとこでなにしてんだ?いるなら早くあけろ」という、中年男性のだみ声が聞こえた。



「カッちゃん・・・・」



 上野は部下の人に返事をするかわりに、赤い瞳で俺を見上げて、俺を呼んだ。



「カッちゃん・・・私・・・・」



 
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