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甘い風
第6章 精算
バッグごと彼女に渡そうとする翔に

「その中から取って」
その言葉は彼女なりの彼への優しさと配慮だ
(私のパーソナルスペースへの侵入を許したこと、わかるかな?)

彼は向けられたその言葉のままに
バッグの中から携帯を見つけ差し出す

「翔の番号は?」

彼は慌てて自分の携帯を取りだし
自らの情報を全て彼女に提供する

うつ伏せに寝転んだまま桜子は
「じゃ、かけるね。その後ショートメールでメアド送って」

「うん」

「ガウン着てくる」
携帯をそのままソファへ残し
クローゼットルームへ消えていく

ーーパタンーー

ーーパタンーー

無防備な携帯を見つめ彼は葛藤
(見たい、でも見たくない)

彼女へのショートメールを終えると
すぐに彼女を追いかけた

ガウンを羽織り
佇む桜子
(彼の未来を私にかけさせていいの?
今は楽しい、ただ、私はこの先何年も彼に飽きずにいられるの?
わからない…彼を傷つけることにはならないかな?)


柔らかく小さな灯りに浮かび上がる
彼女の小さな背中
翔はその姿を見つめながら
「バスタオルちょうだい」
この一言が今の空気を破る精一杯の言葉

慌てて彼女は振り返り
「バスルームの手前の棚の使って」

無言で彼はバスルームへと向かった


(どんなに身体は大人でも18年分の経験でしかない、どうするべきかな、私は…
愛って何だろう…彼に対する愛…彼が選択していく人生を見守ること、なのかなぁ…言葉にするべきか否か…不安…散々男を捨ててきた、これが私自身に対する自らの仕打ちかも…)


バスタオルを手に取る翔
(俺が桜子と一緒にいなかったら、昼間のあの男とどんな会話してたんだろ?あんなセックス、あの男としてたのか?ムカつく、俺、なんだよ、この感じ)

翔は桜子のいる部屋へと戻り
「なんか、ダメ、お前がいなきゃダメ」
彼女の肩を抱きしめ

「翔、ごめん、私、多分愛し方を知らない」

「愛し方って?」

「うちの家族は常に冷えきった関係。私、親に抱きしめられたことがないの」

「…」
(どう言っていいのかわかんねー)

「私の家に来たこともないし、父も母もそれぞれ家が別にある、子供の頃から私のいる場所なんてどこにもなかった。だから、唯一、この家が私の居場所で誰もこの家に入れたこともなかった」

「じゃ、なんでバルコニーの椅子もサンダルも二つもあるの?」
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