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君へ贈る愛の唄
第5章 熱
拓也side
バイトが終わって帰ってきたのは、午後9時すぎだった。
「ただいま〜」
シン…
玄関を開けると、なぜか中は真っ暗だった。
「母さん、もう寝てるの?」
ォレは不審に思い、母さんの部屋を覗いた。
しかし明りをつけると…
「はぁ…はぁ…」
「母さん、どうしたのっ!?」
母さんがベッドの中で苦しそうに息をしている。
おでこに手をあてると、ひどい熱だった。
「今病院に連れてってやるからな、しっかりしろよ」
「はぁ…はぁ…」
ーーーー
オレは母さんをおぶって、タクシーをひろう為に通りへ出た。
秋の夜風が冷たい。
行き交う車は多いのに、タクシーはなかなか通らなかった。
すると母さんがか細い声で言う。
「ごめんね、重いのに…」
「重くねえよ」
密着した母さんの熱が背中にジンジン伝わり、肩越しの息づかいがオレをせつなくした。
「なんで我慢してたんだよ。連絡くれたら、飛んで帰ってきたのに」
「…拓也…」
「ん?」
「お願い…どこへも、行かないで。母さんの傍にいて…」
「ああ、いるよ。だからもうしゃべるな…」
そのとき1台のタクシーが、2人の前にすべり込むように止まった。