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初めて知る痴愛の味
第7章 自身の崩れていったものの正体がわかってもなお彼は
とにかくつらい日々が続いた
自分の気持ちがわからないこともそうだが兎に角、授業をした後の不満足が巡っていることの方が堪えた何十年間もこの教壇に立って最初の頃は工夫に工夫を重ねてどれだけ生徒達にとってわかりやすい授業ができるかを考えていた
その頃は確かに不満足の日々だったのだがある程度自身のやり方が確立していったにも関わらず今になってそれが揺らぎそうになっているのである


焦りと自分への諦めの目が苦しめている
授業を聞いている側は別に失望などしていないのだろうでも授業中そんなふうに見られているような気がしてしまう

まるで暗闇の中にいるようだった

9月の終わりになるとこのことが悩みにもなっていた
そこからくる疲れで教室の机で頭を抱えていると


「先生大丈夫ですか?最近授業中も辛そうですよ」と柏尾が話しかけてきた


「ああ大丈夫だよそれよりも授業は分かりやすいか?分かりにくい所は無いか?」と恐れ恐れ聞いてみると


「授業の内容は分かりやすいんですけど休み明けの授業は先生いつも調子が悪そうでむしろそちらに気がとられて集中できないかもしれません」


内心やはり中島先生のことに対して心の整理がついてないのだろうかと心に聞いてみるがそれはどうやら違うらしいじゃあ休みの前と後、自分は一体何が違っているのだろうか

この時の自分は逃げ出せる気がしない迷路にいてヒントが少しでも欲しかった
自分の心の奥底を知るために・・・
「先生休みが明けてから何か変わった所とかあるか?」
不意にそんなことを聞いてしまう
柏尾だけ他の子と距離感が違ったことによるのかもしれない口に出した後にしまったと思うのだった


「そういえば私たちの方をあまり見なくなったような気がします」と意外な答えが返ってきた


ああ・・・

この柏尾の言葉のお蔭で分かってしまった自分の心の奥がどうなっているのかを


生徒達のことを信じられなくなってしまったのだ
事件を起こした生徒と自分のクラスの子達は全くの無関係だそんなことは分かっている
でも心はそうは思わなかったのだ
生徒達への不信感とそこからくる先生という職業に対しての絶望感
裏切られたのだと思い込んでいる
このことが頭で理解できて胸のつっかえ棒が取れた

それなのに、それ以上に辛いと思うのだった

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