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ドアの隙間
第9章 ふたり
夫は後悔していた。私を抱いた事を、関係を続けた事を、そして、私にプロポーズした事を……
「一緒にいられたらいいんです」
「………」
「こうしていられたら幸せです」
「………」
夫の手を引いて歩いた。
どこにも行かないで。
私を一人にしないで。
私は力のない夫の手を握りしめ、前を向いてずんずん歩いた。
「ここが、私達の家ですよね。」
自宅のドアを開いた。
「あぁ」
「ここが私達のキッチン」
「うん」
「私達のリビング。……寝室、私達ふたりの居場所です」
「………」
「私が後悔していないのに、あなたは後悔するんですか?」
「君を、ちゃんと幸せにしてあげたかった。ちゃんとした形で」
情けない夫の目を見つめた。
「私の幸せを、あなたが勝手に決めつけないで」
「奈津美……」
「私と生きて、どこにも行かないで。ずっと何もなかったの、温めてくれる人はいなかった」
「奈津美」
「あなたが必要なんです。……ワガママを聞いてくれるって言ったわ」
夫が私を抱きしめた。
「そうだね。奈津美ごめんよ。わかった、わかった」
「う、うぅっ……」
どうして悟史は、ミカは許されるの?
どうして私達は許されないの?
罪は、私達の方が重いのかもしれない。
誰にも祝福されないのはわかっていた。
新たな壁が立ちはだかり、罪の重さを思い知らされる。それはあまりにも高く、乗り越えられない壁だった。
それでももう、手放すのは嫌だ。諦めながら生きてきた私の、心からの叫びだった。
「そばにいて、そばにいてください。一人にしないで……」
「そばにいるよ、一人になんかしない」
夫は優しく抱きしめてくれたが、どこかが違う気がした。男としての責任を果たせない事への失望だろうか。
このまま後悔の念を抱きながら、私を見つめ続けるのだろうか。
ようやく手繰り寄せた幸せが手から抜け落ちてしまわないように、夫に強くしがみついた。
「心配しなくてもいい。奈津美、ここが私達の居場所だ。何も変わらないよ」
紙切れ一枚の重さが、今はずっしりとした重みで、夫の心に影を落としていた。
罪深いのは私も同じ。自ら道を踏み外したのだから。
違う、自らこの道を選んだ。掴みとった。
少しの後悔もなかった。
「一緒にいられたらいいんです」
「………」
「こうしていられたら幸せです」
「………」
夫の手を引いて歩いた。
どこにも行かないで。
私を一人にしないで。
私は力のない夫の手を握りしめ、前を向いてずんずん歩いた。
「ここが、私達の家ですよね。」
自宅のドアを開いた。
「あぁ」
「ここが私達のキッチン」
「うん」
「私達のリビング。……寝室、私達ふたりの居場所です」
「………」
「私が後悔していないのに、あなたは後悔するんですか?」
「君を、ちゃんと幸せにしてあげたかった。ちゃんとした形で」
情けない夫の目を見つめた。
「私の幸せを、あなたが勝手に決めつけないで」
「奈津美……」
「私と生きて、どこにも行かないで。ずっと何もなかったの、温めてくれる人はいなかった」
「奈津美」
「あなたが必要なんです。……ワガママを聞いてくれるって言ったわ」
夫が私を抱きしめた。
「そうだね。奈津美ごめんよ。わかった、わかった」
「う、うぅっ……」
どうして悟史は、ミカは許されるの?
どうして私達は許されないの?
罪は、私達の方が重いのかもしれない。
誰にも祝福されないのはわかっていた。
新たな壁が立ちはだかり、罪の重さを思い知らされる。それはあまりにも高く、乗り越えられない壁だった。
それでももう、手放すのは嫌だ。諦めながら生きてきた私の、心からの叫びだった。
「そばにいて、そばにいてください。一人にしないで……」
「そばにいるよ、一人になんかしない」
夫は優しく抱きしめてくれたが、どこかが違う気がした。男としての責任を果たせない事への失望だろうか。
このまま後悔の念を抱きながら、私を見つめ続けるのだろうか。
ようやく手繰り寄せた幸せが手から抜け落ちてしまわないように、夫に強くしがみついた。
「心配しなくてもいい。奈津美、ここが私達の居場所だ。何も変わらないよ」
紙切れ一枚の重さが、今はずっしりとした重みで、夫の心に影を落としていた。
罪深いのは私も同じ。自ら道を踏み外したのだから。
違う、自らこの道を選んだ。掴みとった。
少しの後悔もなかった。