この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ドアの隙間
第9章 ふたり
この人は何を口走っているのか。
私はぽかんと口をあけ、書類を捲っている職員を見つめた。
「えっ?」
「えっ?」
夫と同時に声を発した。
「ご説明させていただきます」
彼は事務的に話し始めた。
「現在の民法735条によりますと、……直系姻族の間では、婚姻をすることができない。728条又は817条の九の規定により姻族関係が終了した後も、同様とする。となっておりまして…」
わけが分からない。いったい何を言っているのだ。
「簡単にご説明致しますと、結婚されて親子関係になると直系姻族になります。離婚すれば姻族関係は当然無くなります」
彼は私の方を見て更に続けた。
「あなたと夫は配偶者の関係ではなくなり、あなたと義理のお父様との間の姻族関係も無くなりますから。あなたと義理のお父様との結婚もできることになりますが……」
「それがなぜ駄目なんです。血縁関係ではないんですよ」
夫が言った。
「はい、おそらく立法者が、倫理上適当ではないと考えたことによる規定だと思われます」
「そんな……」
「倫理上適当ではない、か……法律が変わらなければどうあがいても無理だと……」
「残念ながら、私どもにはどうにも……」
どうやって外に出たのか覚えていない。
黙ってぼんやりと、彼に手を引かれて歩いていた。
明るく賑やかな街中の喧騒も聴こえず、店先に並んだポインセチアも、クリスマスツリーも、サンタクロースも、灰色の冷たい壁でしかなかった。
夫はどこに向かって歩いているのだろうか。問い掛ける言葉さえ闇に吸い込まれていく。
夫がこちらを向いた。
「すまない」
「えっ?」
「君にはすまない事をした」
「どうして……」
「私のせいで……、私が犯したとんでもない過ちのせいで、君の未来を汚してしまった」
彼は肩を落とし、拳を握りしめていた。
「最初から間違いだったんだ。当たり前だ、まともじゃない。なんて馬鹿な事を仕出かしてしまったんだ……どう考えても異常だ……」
「ちょっと待ってください。どうしてそんな事を言うんです」
「奈津美……」
「洋さん、歩きましょう」
私はぽかんと口をあけ、書類を捲っている職員を見つめた。
「えっ?」
「えっ?」
夫と同時に声を発した。
「ご説明させていただきます」
彼は事務的に話し始めた。
「現在の民法735条によりますと、……直系姻族の間では、婚姻をすることができない。728条又は817条の九の規定により姻族関係が終了した後も、同様とする。となっておりまして…」
わけが分からない。いったい何を言っているのだ。
「簡単にご説明致しますと、結婚されて親子関係になると直系姻族になります。離婚すれば姻族関係は当然無くなります」
彼は私の方を見て更に続けた。
「あなたと夫は配偶者の関係ではなくなり、あなたと義理のお父様との間の姻族関係も無くなりますから。あなたと義理のお父様との結婚もできることになりますが……」
「それがなぜ駄目なんです。血縁関係ではないんですよ」
夫が言った。
「はい、おそらく立法者が、倫理上適当ではないと考えたことによる規定だと思われます」
「そんな……」
「倫理上適当ではない、か……法律が変わらなければどうあがいても無理だと……」
「残念ながら、私どもにはどうにも……」
どうやって外に出たのか覚えていない。
黙ってぼんやりと、彼に手を引かれて歩いていた。
明るく賑やかな街中の喧騒も聴こえず、店先に並んだポインセチアも、クリスマスツリーも、サンタクロースも、灰色の冷たい壁でしかなかった。
夫はどこに向かって歩いているのだろうか。問い掛ける言葉さえ闇に吸い込まれていく。
夫がこちらを向いた。
「すまない」
「えっ?」
「君にはすまない事をした」
「どうして……」
「私のせいで……、私が犯したとんでもない過ちのせいで、君の未来を汚してしまった」
彼は肩を落とし、拳を握りしめていた。
「最初から間違いだったんだ。当たり前だ、まともじゃない。なんて馬鹿な事を仕出かしてしまったんだ……どう考えても異常だ……」
「ちょっと待ってください。どうしてそんな事を言うんです」
「奈津美……」
「洋さん、歩きましょう」