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ドアの隙間
第10章 幸せな時間
「あ、吉村部長の奥様ですか」

「はい」

「私、部下の石崎と申します」

「いつも主人がお世話になっております。あの……」

「じつは、部長が社内で突然倒れまして、今救急車で病院に運ばれた所なんです」

っ……倒れた……彼が倒れた?

「どこです、どこの病院ですか? 夫は大丈夫なんでしょうか」

「メモはありますか? 病院をお教えします。近くなので私もこれから向かいます」

「夫は、夫の意識は……」

受話器を握り締める手が震えた。

「私も外から戻ったばかりで詳しいことはわからないんです。病院名は……」

メモを取りながら足元がふらついた。

悪い冗談はやめてよ
あなた、あなた……

店長に事情を話し、ロッカーから上着とバッグを取り出した。

「奈津美さん、大丈夫ですか?」

「えぇ……ごめん、由貴ちゃん、あとお願いね」

「はい」

由貴の肩に触れて外に出た。
向かった病院は義母が倒れた際に運ばれた病院だった。

お義母さん、あの人を守ってください。
あなた、私を一人にしないで。

良くない事しか思い付かず気持ちが急いた。

――ありがとう、奈津美。
私は幸せ者だよ、君のお陰だ。

……大丈夫、きっと大丈夫。
駆け付けた私を見て「心配させてごめん」って笑うに決まってる。「帰ろうか」って言ってすたすた歩き出すに決まってる。
そして彼は私に怒られるの「もうっ、びっくりさせないでよ!」って……

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