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ドアの隙間
第11章 希望
病院の玄関でタクシーを降りると、スーツ姿の男性が駆け寄ってきて石崎と名乗った。
「あの、夫は」
挨拶する余裕などなかった。
「……医師の説明では、くも膜下出血との事でした。とにかく手術室にご案内します。こちらに……」
「くも膜下……」
義母と同じだった。
「一刻を争う状態だと言われましたので、私が同意書にサインを……、お、奥様、しっかりしてください」
へなへなと廊下に座り込んでしまった私は石崎の手を借りて立ち上り、腕を掴まれて歩いた。どこをどう進んだのかわからないまま、中央手術室の扉を前にして現実を目の当たりにした。
「ここで待ちましょう」
石崎に促され長椅子に座った。
時が経つのをこんなにも長く感じたことはない。私はただ祈った。
一人にしないで、約束よ――
あの絵本の猫、ラストはどんなだったっけ。本当の愛を見つけてどうなったんだっけ……
いろんな人間に飼われ、何度も何度も生まれ変わって、ただののら猫になってやっとたどり着いた幸せ。そして猫は、恋人をなくし――
いやだ、いやだいやだ。お願いあの人を助けて。
手術室のドアが開いた。
「先生っ」
石崎と並んで立ち、マスクを外した医師の顔を見つめた。
「手は尽くしましたが非常に難しい状況です。他にご家族がいらっしゃるなら早くお呼びになった方が……」
「な、何をいうんです、そんなの嘘です。今朝はいつもと変わらず出掛けたんですよ。それがどうして……どうしてこんな……」
騙されている、こんなの嘘だ。
嘘……
がっくりと膝の力が抜けた。
「奥様、部長の息子さんには、私からご連絡させて頂いても構いませんか?」
「………」
「奥様、奥様、しっかりなさってください」
どうして、どうして……
ねぇあなた、早くそこから出てきて。
「心配させてごめん」って言ってよ。
「いやよ、一人にしないで!お願い、お義母さんの所へ行かないで!」
「奥様……」
「嘘よ……嘘よ…いや、いやぁ……うっ」
吐き気をもよおしトイレに駆け込んだ。
繰り返し嘔吐し、さらに嗚咽と息苦しさに襲われた私はそこにうずくまり、そのまま意識を失った。
「あの、夫は」
挨拶する余裕などなかった。
「……医師の説明では、くも膜下出血との事でした。とにかく手術室にご案内します。こちらに……」
「くも膜下……」
義母と同じだった。
「一刻を争う状態だと言われましたので、私が同意書にサインを……、お、奥様、しっかりしてください」
へなへなと廊下に座り込んでしまった私は石崎の手を借りて立ち上り、腕を掴まれて歩いた。どこをどう進んだのかわからないまま、中央手術室の扉を前にして現実を目の当たりにした。
「ここで待ちましょう」
石崎に促され長椅子に座った。
時が経つのをこんなにも長く感じたことはない。私はただ祈った。
一人にしないで、約束よ――
あの絵本の猫、ラストはどんなだったっけ。本当の愛を見つけてどうなったんだっけ……
いろんな人間に飼われ、何度も何度も生まれ変わって、ただののら猫になってやっとたどり着いた幸せ。そして猫は、恋人をなくし――
いやだ、いやだいやだ。お願いあの人を助けて。
手術室のドアが開いた。
「先生っ」
石崎と並んで立ち、マスクを外した医師の顔を見つめた。
「手は尽くしましたが非常に難しい状況です。他にご家族がいらっしゃるなら早くお呼びになった方が……」
「な、何をいうんです、そんなの嘘です。今朝はいつもと変わらず出掛けたんですよ。それがどうして……どうしてこんな……」
騙されている、こんなの嘘だ。
嘘……
がっくりと膝の力が抜けた。
「奥様、部長の息子さんには、私からご連絡させて頂いても構いませんか?」
「………」
「奥様、奥様、しっかりなさってください」
どうして、どうして……
ねぇあなた、早くそこから出てきて。
「心配させてごめん」って言ってよ。
「いやよ、一人にしないで!お願い、お義母さんの所へ行かないで!」
「奥様……」
「嘘よ……嘘よ…いや、いやぁ……うっ」
吐き気をもよおしトイレに駆け込んだ。
繰り返し嘔吐し、さらに嗚咽と息苦しさに襲われた私はそこにうずくまり、そのまま意識を失った。