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ドアの隙間
第11章 希望
「君を一人になんかしない」
「本当?」
「君に嘘をついた事は一度もない」
うっすらと目を開いた。
「奈津美、気がついた?」
誰かが顔を覗き込んでいる。
「奈津美」
「……ん? 悟史……、どうしたの?」
「昨日の晩こっちに着いたんだ」
「昨日の晩……、っ! か、彼は……」
起き上がろうとすると、目の前がぐらぐらと揺れる。
「動ける?」
「は、早く……」
悟史が押す車椅子に座り、私は夫の待つ病室に向かった。
「ついさっきだったよ」
「………」
ベッドの横に義兄夫婦がいた。
「彼、眠ってるの?」
「奈津美」
「ねぇ起きて、夢であなたと話したの、早く起きてね、待ってるから」
「悟史、俺達席を外すよ」
義兄夫婦が出て行った。
「奈津美、親父はもう起きない」
「嘘……」
「奈津美」
「一人にしないって言ったもの。あなた起きて、ねぇ、ねぇ!」
「眠るように逝ったよ」
そうだ頬にキスをしたら寝てるふりをやめる筈。きっとそれを待ってるのよ。
立ち上がり、夫の頬にそっと唇をつけた。
「……起きないな」
その冷たさが唇に残った。
「あぁ起きない」
「し、死んじゃったの?」
「そうだよ死んじまった。ちくしょう、 なんでだよ。何も話せないままなんて。怒鳴ってしまった事を謝りたかったのに……」
本当に死んだ。私を遺して……
「嘘、嘘よ! あ、あなた、あなた! うぅっ……嘘つき、嘘つき、どうしてなの? ねえどうして……一人にしないっていったけどじゃない! 酷い、酷いっ……」
私は頭をかきむしり、半狂乱で叫んでいた。
「奈津美、奈津美しっかりしてくれ」
悟史が私を抱きしめた。抱きしめながら泣いていた。 けれどそれは、愛する夫の胸ではなかった。もう二度と、愛しい人に抱きしめてもらえない。
「いやぁぁっ! 離して、離して! あなた、あなたぁぁ……」
部屋に飛び込んできた数人に押さえつけられ、病室に戻されて薬で寝かされた。
起き上がれない日が続いたその間、葬儀告別式が親族間で執り行われた。私は正式な妻でもなく、たとえ出席出来てもこの体調では迷惑をかけるだけだっただろう。
「彼が待ってるの、早くいってあげなくちゃ」
「本当?」
「君に嘘をついた事は一度もない」
うっすらと目を開いた。
「奈津美、気がついた?」
誰かが顔を覗き込んでいる。
「奈津美」
「……ん? 悟史……、どうしたの?」
「昨日の晩こっちに着いたんだ」
「昨日の晩……、っ! か、彼は……」
起き上がろうとすると、目の前がぐらぐらと揺れる。
「動ける?」
「は、早く……」
悟史が押す車椅子に座り、私は夫の待つ病室に向かった。
「ついさっきだったよ」
「………」
ベッドの横に義兄夫婦がいた。
「彼、眠ってるの?」
「奈津美」
「ねぇ起きて、夢であなたと話したの、早く起きてね、待ってるから」
「悟史、俺達席を外すよ」
義兄夫婦が出て行った。
「奈津美、親父はもう起きない」
「嘘……」
「奈津美」
「一人にしないって言ったもの。あなた起きて、ねぇ、ねぇ!」
「眠るように逝ったよ」
そうだ頬にキスをしたら寝てるふりをやめる筈。きっとそれを待ってるのよ。
立ち上がり、夫の頬にそっと唇をつけた。
「……起きないな」
その冷たさが唇に残った。
「あぁ起きない」
「し、死んじゃったの?」
「そうだよ死んじまった。ちくしょう、 なんでだよ。何も話せないままなんて。怒鳴ってしまった事を謝りたかったのに……」
本当に死んだ。私を遺して……
「嘘、嘘よ! あ、あなた、あなた! うぅっ……嘘つき、嘘つき、どうしてなの? ねえどうして……一人にしないっていったけどじゃない! 酷い、酷いっ……」
私は頭をかきむしり、半狂乱で叫んでいた。
「奈津美、奈津美しっかりしてくれ」
悟史が私を抱きしめた。抱きしめながら泣いていた。 けれどそれは、愛する夫の胸ではなかった。もう二度と、愛しい人に抱きしめてもらえない。
「いやぁぁっ! 離して、離して! あなた、あなたぁぁ……」
部屋に飛び込んできた数人に押さえつけられ、病室に戻されて薬で寝かされた。
起き上がれない日が続いたその間、葬儀告別式が親族間で執り行われた。私は正式な妻でもなく、たとえ出席出来てもこの体調では迷惑をかけるだけだっただろう。
「彼が待ってるの、早くいってあげなくちゃ」