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ドアの隙間
第11章 希望
「早く行ってあげなくちゃ、彼が私を待ってるの」

目覚めた私は部屋に誰かが来る度にそう言った。そのせいか、誰も私を一人にしてくれなかった。
気力を無くし、食欲もなかった。彼はいない。一人で過ごす時間に意味などなく、生きている実感がなかった。

「吉村さん、具合は如何ですか? 少し落ち着きましたか?」

主治医が病室に顔を出した。

「いつも落ち着いています」

「……そうですか、今日は大事なお話があるんです」

「退院ですか?」

「入院して一週間ですね」

「体調は問題ないです。先生、早く退院させてください」

一人きりになりたかった。

「急ぐことはないですよ。私は診療内科の医者ですが、ぜひ他の先生のお話も聞いてください。相談にのってくれると思います。お呼びしますね」

「はぁ」

主治医が行ってすぐ、「失礼します」と女性の医師が入ってきた。

「はじめまして、産婦人科の橋本です」

「産婦人科? どこか悪いんですか?」

手元のリモコンを操作してベッドを起こした。

「おちついて、ゆっくりお話ししましょう」

彼女は椅子に掛け、様子を伺う面差しで微笑んだ。患者に病名を告げる時、彼らは安心させようと頬を緩める。だが私にはもう怖れるものなんてなかった。女性特有の癌でも見つかったのだろうか。

「遠慮なく言ってください」

「……あなたは妊娠しています」

「……えっ? まさか……そんな筈ありません。私はその、避妊の為のリングを装着してますから」

「えぇ……その時に説明があったと思いますが、子宮内避妊具、つまりリング装着で避妊できる確率は約98から99パーセント。100人に一人から二人は妊娠する可能性があります。実際私もこれまでに数件診てきました。出産された方もいらっしゃいますし、そうでない方もいらっしゃいました」

ぽっと明かりが灯った。

「吉村さんの場合、妊娠は間違いありませんが、大変なご事情がおありですので、まずはよくお考えになって……」

「産みます」

「急いで決めなくても構わないんですよ。どなたかと相談……」

「いいえ、今、夫と相談しました。約束を守ってくれたんです」

「………」

「本当に赤ちゃんがいるんですね。ここに……」

薄っぺらな腹部に手を当てた。

「えぇ……生理が遅れていませんか?」

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