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ドアの隙間
第11章 希望
「いつも遅れがちだったもので……」

彼女は最終月経日を訊ねた。

「……その日からだと、……おそらく妊娠二ヶ月の後半辺りかと」

赤ちゃん……彼の赤ちゃん……

「私、ちゃんと育てます」

「もうあなた一人の身体じゃありませんよ。本当の意味で元気にならないと」

「……はい、ありがとう、ありがとうございます。元気でいないと彼に叱られますね」


一人になった部屋で、タオルがぐしょぐしょになる程たくさんの涙と鼻水を流した。

――君を一人になんかしない

彼の声がはっきりと聞こえた。それは私を温かくくるみ、希望の火を灯した。
彼は近くにいる。そう信じて疑わなかった。

ありがとう、ありがとう。
一人じゃないのね私。



―――――――――――――――



朝に夕に、これから先を考えていた。彼名義のマンションは出なければならない。小さなアパートを探し、7月に誕生する新しい命を守らなければならない。
今から保育所を探した方がいいだろうか。育児休暇はとれるだろうか。
自分で動き、交渉しなければ。
この子の為に――

退院が明日に決まった朝、初めて由貴に連絡した。妊娠を伝えるとと、午後から休みだといって顔を見に来た。

「冬休みなので張り切ってお手伝いしますよ」

力強い味方だった。

「ありがとう、助かります」

「何も出来ない自分が情けなかったんです」

「由貴ちゃん……」

「奈津美さんは、きっと素敵なママになりますよ」

「そう?」

「だって絵本の読み聞かせ、だいぶ上手になりましたから」

「だいぶ?」

「あ、すみません」

「いいの、自信がついた、ふふっ」

子供が苦手ではなくなっていた。柔らかい頬や、一途な眼差しに癒しを感じ、またあの場に戻りたいと思った。
夫に甘え、わがままを許されるうち、柔軟な心を手に入れたのかも知れない。
前向きでいよう。悲しくて泣いても、きっと立ち上がれる。この子と生きていく為に。

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