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ドアの隙間
第11章 希望
由貴と二人、部屋の窓から夕暮れを眺めていた。

「こんばんは石崎です。明日が退院だとお聞きしましたのでご挨拶にと思いまして」

「わざわざ訪ねてくださったんですか?申し訳ありません。さんざんお世話になっていながらちゃんとご挨拶も出来ないままで」

「いえ、そんなことは気になさらないでください。……じつは、悟史さんも一緒なんです」

悟史が遠慮がちに入ってきた。

「退院と聞いてホッとしたよ。いろんな手続きで福岡とこっちを行ったり来たりしてたんだ、具合はどう?」

「いろいろごめんなさい。もう大丈夫です」

「そう、よかった。ちょっと大事な話があってね。石崎さんにお願いして一緒に来てもらったんだ」

石崎がかしこまって一礼した。
悟史の大事な話というのはだいたい想像できた。
悟史との関係を知っている由貴が、一歩前に踏み出した。

「奈津美さんはママになるんです。アパートが見つかるまでの間、追い出さないであげてください」

「えっ?」

男性的二人が顔を見合わせた。

「妊娠してるの?」

悟史が目を丸くした。

「えぇ」

「……産むんだね」

「はい。あの、引っ越し先が決まったらすぐにあの家を出ますのでそれまで……」

由貴がふんっと鼻息荒く後ろに下がった。

「ああ、うん。まずは、お墓の事なんだけど、兄貴とも相談して、親父とお袋を一緒にしてやることにしたんだ」

私の出る幕ではなかった。家族なんだし当たり前だ。私は部外者でしかない。

「そうしてあげてください」

心が小さく傷ついた。

「それから」

「はい」

「あの私、席を外した方が……」

「いいのよ由貴ちゃん、ここにいて」

「……はい」

「何を言われても構いません。皆さんにご迷惑はかけません」

「奈津美、親父は遺言を書いていたんだ。石崎さんが俺に知らせてくれてね」

「………」

「親父は奈津美にあのマンションを遺したよ。ある程度の預金もね。だから出ていく必要はないよ」

「………」

「兄貴と俺にもちゃんと遺してくれたし、誰も異存はないんだ。サインも終わってる」

「………」

「面倒な手続きは石崎さんに協力してもらうといい」

「……でも私」

「親父は、本気で奈津美を幸せにしたかったんだ」

「それは間違いありません」

石崎が口をはさんだ。


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