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ドアの隙間
第3章 孤独な人
休日の朝はいつものんびりしている。夫と遅い朝食をすませ、洗い物をする時間になっても、義父が部屋から出てくる気配がない。
昨夜の事で顔を合わせにくい私は、夫に
「お義父さんどうしたのかしら。様子を見てきてくれない?」と頼んだ。

夫が義父の部屋をノックしても応答がないらしく、ドアを開けて中に入って行った。

「まだ寝てるけど、熱でもあるんじゃないかな」

「えっ? そうなの?」

私は体温計を手に中に入った。

「お義父さん、大丈夫ですか?」

額に手を当てると熱い。

「あぁ、なんか体がだるくてね……」

熱を測ると37度5分。

「病院に行きましょうか?」

「いや、今日は一日寝ていたい。」

「じゃあ後でお薬を持ってきますね。熱が高くなったら病院ですよ」

「はい」

義父は素直に返事をして目を閉じた。
疲れた顔をしている、少し痩せたようだ。彼は義母が亡くなってから、誰かにその心情を打ち明けた事があるのだろうか。

昨夜「寂しい」と言ってすぐに否定した事が、かえって気になった。寂しくないわけがない。
あんなに熱く欲していたのだから。

義母の身体を――

――葉子……私の葉子……あぁ……


「大丈夫そうだな。俺ちょっと自転車に乗って来てもいい?」

「寒いから風邪ひかないように気をつけてね」

「うん」

自転車が趣味の夫は、ロードバイクを持っていた。
義母が亡くなってから、それまでほとんど乗っていなかったロードバイクを手入れして、一人でふらりと出掛けるようになった。母親がいない家は寂しいのかもしれない。
夫を送り出し、私は義父にお粥を作って部屋に運んだ。

「お義父さん、お粥を持ってきました。食べ終わったらこの薬を飲んでくださいね」

「ありがとう。そこに置いといて…」

「起きられますか?」

「あぁ、大丈夫。自分で食べられる」

義父は背中を向けたままそう言った。

「何か必要なものがあったら呼んでくださいね」

「あぁ、ありがとう」

部屋を出るまで、義父は背中を向けたままだった。


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