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ドアの隙間
第3章 孤独な人
義父は翌日の夕食から一緒にテーブルを囲んだ。

「食欲はどうですか?」

「あぁ、お腹がすいたよ。ありがとう世話になったね」

「どういたしまして。大したことしてませんよ。でもお義父さん、これからもっと寒くなりますから気をつけ……」

「あ、俺、来週会社の保養所で忘年会なんだ」

夫が思い出したように会話を遮った。

「あら、去年と同じなのね。また金曜日から出発?」

「そうなんだ。会社からそのまま向かうから帰りは日曜の夜になるな。行ってもいい?」

「もちろんよ。ひとりだけ欠席できないでしょ?いってらっしゃい」

「うん」

夫はほっとした表情だ。きっと気分転換になるだろう。
昨年のその時期、私は義父母と三人で食事に出掛けた。不在の家族への不満を口々に言い合い、くしゃみでもしているんじゃないかと笑い合ったひと時はもう二度と来ない。
黙ってコーヒーを啜る義父も、同じことを思っているだろうか。
義父と二人きりでどう過ごせばいいのだろう。

「奈津美さん、今年は私と二人だけど、食事に出掛けるかい?」

「そうだよ、そうしなよ奈津美」

「じゃあ、そうしましょうか」

義父は少し微笑んで頷いた。夫は私に(頼むよ)と目配せをして、嬉しそうに食事を続けた。私も嬉しかった。義父が微笑んでくれた事が。

その日は義父の話をゆっくりと聞いて和やかに過ごそう。たくさん笑わせよう。
小さなハプニングだったのだ。わだかまりなどない。義父は私にとって、夫の父親でしかないと、この胸に深く刻むのだ。

義父に抱かれる夢で濡れるのはいやだった。あの熱い唇と指を求めてしまう自分がいやだった。誰も知らない密かな楽しみが、無邪気に笑う夫への背徳だと思えてくる。

義父は食事を終えると庭に出て煙草に火をつけ、煙たそうな目で空を見上げている。義母の編んだカーディガンを持っていき肩に掛けると、「あぁ、ありがとう」 と言って、肩に触れた私の手をとんとんと軽く叩いた。冷たい手だった。

「また熱が出てしまいますよ」

「そうだね、部屋に戻るよ」

すぐに煙草を揉み消し、おやすみ と言って寝室のドアを閉じた。

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