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ドアの隙間
第4章 頭と心と身体
え……?

時が止まり、呼吸が止まった。言葉が出るわけがなかった。
笑うしかない。

「あはは。やだお義父さん、もう酔ったんですか?」

「変かな」

「変ですよ。あ、私ちょっと悟史さんに電話しなくちゃ、約束してたの忘れてました」

バーを出た。さっきの二人はもういなかった。
鼓動が高鳴り、胸が締め付けられる。悟史の声が聞きたい。私を引き留めてほしい。

なぜ、なぜ……
私は義父に、そして自分に問い掛けた。

悟史、お願い、すぐに電話に出て。
マフラーを忘れた事を謝ってくれてもいい。許すから、すぐに許すから……

「はい」

「あ、あなた?いま話せる?」

「あ……うん、ちょっとまって、あ、親父はどう?」

「えぇ、楽しんでるわ。そうそう、ねえ、私の編んだマフラー忘れていったでしょ?…」

「(ネェ サトシィ、マダァ? ハャクゥ)あっ、ご、ごめん」

「……」

「そう、忘れちゃってさ。あ、ちょっと、これからみんなで二次会なんだ、ごめん、切るよ」

一方的に電話が切れた。

今のは何、なんなの?
今、確かに女の声がした。

――ねぇ悟史ぃ まだぁ?

聞き覚えのある声だ。甘ったるい声。

……っ、そうだ、通夜の席に来ていた、悟史の会社の女子社員。受け付けを手伝ってくれた若い女の子だ。
確か、みんなにミカちゃんと呼ばれて……

なぜ彼女が夫を呼び捨てにしているの?

頭の中で、甘えた声がぐるぐるとしゃべり続ける回り続ける。

私はその場にしゃがみ込み、胸の痛みと震え出す身体に耐えていた。
もう一度かけ直そうとした時、義父が出てきた。

「奈津美さん……どうした」

「だ、大丈夫です。」

「悟史は?」

「えっ?」

「電話した?」

「あぁ、は、はい、盛り上がってました」

義父は店内に戻り、私のコートを持って出てきた。

「帰ろう、家でも飲める」

「え?」

「立てるかい?」

「はい」

ふらふらと立ち上がると、義父がコートを掛けてくれた。

「タクシーを呼ぼうか?」

「いえ、歩きます」

私は義父と自宅に向かって歩いていた。
夫はいま何をしているのだろう。
ベッドの中で、あの甘い声に興奮しているのだろうか。

彼は、私が編んだマフラーを忘れて行ったのではなく、置いて行ったのだ。私はようやく気がついた。


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