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ドアの隙間
第4章 頭と心と身体
昼過ぎに義父が「今夜のディナーはホテルでとる事にしよう。バーもあるし」と言い出した。

「えっ?」

「家で食べると片付けに時間を取られるからね」

「はぁ……、そうですね。ホテルで食事なんて贅沢していいんですか? ありがとうございます」

私達はいつもより少しお洒落をして、義父と一緒にタクシーに乗り込み、きらびやかな街へと繰り出した。
タクシーの中で、義父はそっと私の手を取り膝の上に置いた。
鼓動が早くなり、私は焦った。手のひらを擦る彼の指が、欲望を目覚めさせようとしていた。

ホテルに着いてすぐ、私は化粧室へ向かい、自分の顔を確かめた。義父から逃れたかった。心までわし掴みにされそうだった。

最上階のレストランで、ワインを飲みながら食事をすすめた。
冬の夜景は美しく、澄んだ空気が街の明かりを際立たせている。室内には静かなジャズが流れ、大人の空間に優しく寄り添っていた。

私達は今朝の失敗を笑い合い、お義母さんがいたら大目玉でしたね、と言って目を細めた。

「寂しくなりましたよね」

「そうだね」

「でも、お義父さんの笑顔が見られてほっとしています」

「あぁ、私は大丈夫だよ。奈津美さんがいてくれる」

「……家族ですから」

「ずっと側にいてほしい」

「えぇ、家族は大切ですから」

「大切にするよ」

その目は私だけに向けられていた。明らかに義母が居た時とは違う、熱のこもった視線だった。


「あら、洋さん?」

女性の親しげな声が義父の名を呼ぶ。スラリとした長身の女性が近づいて来た。目鼻立ちのはっきりとした美しい顔には自信が感じられる。

「あぁ、君は……」

「早苗ですよ。お久しぶりです。 奥様の事残念でしたわね。 お寂しいでしょう。あら、こちら様は?」

「息子の嫁さんです」

「まあ、可愛らしい方。ねぇ洋さん、こんな事まだ早いですけどね、男は妻を亡くすとがっくりしてしまいますからね、寂しかったらいつでも声を掛けてくださいな。洋さんならいくらでも、素敵な方をご紹介しますわ」

「まあ、その時はよろしく」

「えぇ、いつでもお待ちしております。では……」

軽い会釈を交わし、私達は女性を見送った。

「お義父さん」

「…ん?」

「どなたですか?」

「あぁ、スナックのママだよ」

「スナック?」

「うん、昔よく行ってたんだ。でもただの顔馴染み」

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