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ドアの隙間
第4章 頭と心と身体
私の気持ちは波立った。義父がモテないわけがない。こうして食事しているだけで、女性の視線を独り占めしているのだから。

再婚……、新しい家族、女……




私達は同じフロアにあるバーに入った。レストランよりも照明を落としたこのバーは、人の出入りも疎らで落ち着いている。
バーテンダーは店内を見渡しながらグラスを磨き、私達は、カウンターの隅でそれぞれのグラスを傾けていた。
窓際の席の男女が、赤いグラスをそっと合わせて微笑んでいる。恋人同士だろうか……

私はずっと、義父の再婚の可能性を考えていた。充分にあり得る、何の問題もない。この先の人生、一人でいる彼に惹か女性はきっといる。放って置かないだろう。さっきの女性のように、大人で、色気のある素敵な女性はたくさんいる。

でも、でも……

「奈津美さん…」

「はい」

「部屋を取った」

「えっ?」

「今夜は泊まるよ」

「……」

「欲しいんだ」

「……、断れますか?」

「無理だね」

胸が苦しい……
あなたは大人で
私は……私は……

「遊んでいるんですか?」

「愛してもいいのかい?」

「……」

義父の吐く煙草の煙が、口にしたい言葉を掻き消してゆく。

「誰にも触らせたくない」

義父は、私の心を覗くような目をした。

「そんな目で見ないでください」

息ができない程胸が苦しい。

「奈津美さん」

「再婚は……」

「えっ?」

「……この先、誰かとお付き合いしたり再婚するのが、今よりずっと……、自然な事なんじゃないですか?」

「……」

「……お義父さん」

「出よう」

私は義父に手を引かれ、階下の部屋に連れていかれた。
ダブルベッドが二つ並び、ソファとテーブルがゆったりと置かれた広い部屋。
私は黙ったままカーテンを開け、ぼんやりた夜景を眺めた。すぐに義父が抱きしめてくる。

「私が再婚すると?」

「その方がいいんじゃないですか?」

「そうかもしれないね」

「……私以外なら、どなたとでも結婚できます」

「……そうだね」

「そうだ、ふふっ、私と浮気をしたらいいんですよ」

「いや…私は浮気が出来ない男なんだ。再婚したら浮気はしない」

私は振り向いて義父を睨み付けた。

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