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ドアの隙間
第5章 女の影
あんなわかりやすい態度で、私が気付かないと思っているのだろうか。
自分の妻が、父親と何をしていたかも知らないくせに。

朝食の支度の合間に洗濯物を洗濯機に放り込む。 昨夜夫が出した汚れ物を袋から引っ張り出した。

「ん?何これ」

肌着や靴下の中に赤い端切れらしきものが紛れ混んでいて、なんだろうとつまみ上げてみた。ただの紐に見えていたそれは、殆どその機能を果たせそうもない、見るからにエロチックな女性用の下着だった。

「……」

夫が汚れ物の中にわざわざ入れる筈がない。知っていたら私に洗濯を頼むわけがない。
女からの挑戦状だ。
私は目の前に下がっている赤くて透けた小さな布を見続けた。
自信があるのか、単なるバカなのか……
単なるバカは夫だ。

怒りにわなわなと身体が震えだす。鼓動が速くなり、肩で大きく息をする。
嘲笑う女の声が聞こえる。

ネェ サトシィ、マダァ?
ハヤクゥ…ネェ サトシィ、マダァ?
ハヤクゥ…ハヤクゥハヤクゥハヤクゥ……

あれもわざと私に聞かせるため?
私は冷静になれと自分に言い聞かせ、その赤い紐をつまんだままダイニングに向かった。
義父と夫が呑気にくつろいでいる。

「あなた、こんなのがあなたの洗濯物から出てきたわ」

「ん?」

「何かしらこれ」

夫の目の前にぶら下げて見せる。

「なんだそれは」

義父が横から口を出してきた。

「……し、知らない、えっ、何で? 俺知らないよ、ほんとだよ」

「悟史、お前のじゃないのか?」

「っ、ええっ? あはははは……」

悟史は真っ青になって固まっていたが、私は思わず吹き出した。義父が真面目なのかふざけているのかわからない。でも私はある意味救われた。

「あなた、平井さん達にいたずらされたんじゃないの? 誰と同じ部屋だった?」

夫はポカンとした顔をしていたが、ハッとして私の助け船に乗ってきた。

「あぁ、あぁ、そうかも知れない、まったくアイツら、どうしようもないな」

「これ、返しておいてね」

「えっ、うん、わかった」

「家族みんな見て笑ったって言ってあげてね」

「うん、言っとく」

「失礼なやつらだなぁ」

「お義父さんこそ、変ですよ」

「よくある悪戯さ」



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