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ドアの隙間
第6章 長い夜。
手袋もマフラーもなかった私は、冷たくなった指でエレベーターのボタンを押した。


「あの、飲みやすくて強めのカクテルをください」

あの日と同じ席に腰を下ろした。

「はい」

バーテンダーがシェーカーを振る。なんの感慨もなく見つめ、そういえば今日はクリスマスだとため息をついた。

「どうぞ、アレクサンダーです」

薄茶色のカクテルが差し出された。口をつけると、チョコレートの甘い風味が舌の上に広がる。

「……美味しい」

「飲みやすいので人気なんですが、軽いお酒ではないですよ」

「……気に入りました」

「今日はお一人で?」

「えぇ」

「ゆっくりなさってください」

「ありがとうございます」

クリスマスに行き場のない者達の居場所。

「おかわりしようかな」

「もっと軽いものにしましょう」

「いえ、同じもので」

「大丈夫ですか?」

「えぇ」

「お嬢さん、それは私からプレゼントさせてもらうよ」

カウンター席の奥を見つめた。

「やあ、一人?」

「……店長」

「メリークリスマス」

嫌なやつと会ってしまった。

「一人でどうしたの?」

「……べつに」

「私は寂しくてここにいるんだけどね」

「どうぞ」

二杯めが目の前に置かれた。

「………」

「邪魔はしないから遠慮なくどうぞ」

「……いただきます」

最悪の思い出となるカクテル。私は半笑いで飲み干し、バーテンダーが出してくれたグラスの水で喉を潤した。 身体が温まり、脈が速くなるのを一人楽しむ。頬杖をついてぼやけた店内を見渡すと、すべてが小さな事に思えてくる。

ふふっ、たいした事ないじゃない

洗面所案内のプレートを見つけて席を立つと足元がふらついた。

「奈津美ちゃん、大丈夫かい?」

「あはは……」

面白いように床が歪む。個室のドアまでたどり着き、中に入って下着を下ろした。
そういえばタンスにしまってある勝負下着……、もったいない事しちゃったな。
店員さんごめんなさい。

手を洗いながら鏡を見ると、無様な女が映っていた。 笑いが込み上げてくる。

「ふふっ、あははは……」

手を拭いて笑い、ドアが開くのを見て笑い、入ってきた女性を見ては指を差して笑った。ふらつく足元までもが笑える。

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