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ドアの隙間
第6章 長い夜。
こんな日常が続くと、どうして思い込んでいたのだろう。どこからほころび始めたのか。あの日、あのドアを覗いてからだろうか。夫の浮気を知ってからだろうか。それとも、もっとずっと前から私は……

今夜の記憶を手繰り寄せ、関口ミカとの会話や、バーで店長と会ったところまでを思い出した。
乳房に残る感覚に悪夢が蘇る。吐き気がする。乳房を切り取ってしまいたい。

あ……私、何か叫んだ
そうだ、助けて欲しくて必死に……

「やっと見つけた」

視線の先に足が見えた。

「奈津美さん?」

見上げると義父が笑っていた。

「さあ、帰ろう」

義父が、かがんで頭を撫でた。

「立てるかな?」

出された手を掴んで立ち上がる。

「冷たい手だなぁ」

義父は、私が贈った手袋を外し、私の手にはめた。

「奈津美さんのマフラーも一緒に巻いて来たら首が苦しくなってね、あはは……」

義父は首から私のマフラーを外して私の首に巻いた。

「寒かっただろう?」

優しく笑ってそう言った。

「捜したんだよ」

「……どうして」

「奈津美さんの帰りが遅いから電話したんだよ、そしたらほら」

義父はポケットから、私の携帯を出して見せた。

「どこで鳴っているのかわからなくて、何度も電話したんだ、ははっ…」

私も笑った。笑った瞬間涙がこぼれた。

「なんだ、どうした…」

「お義父さん…」

思い出した。あの時何を叫んだのか。私は義父の胸に飛び込んで泣いた。

「お義父さん……お義父さん……うっ、うぅぅ……お義父さん……」

私は人目もはばからず、わぁわぁ泣いた。子どものようにしゃくりあげ、肩を震わせ、鼻水をたらしながら泣き続けた。
義父は私の背中を擦ったり、頭を撫でたりしながらずっと抱きしめてくれていた。
義父は温かかった。義父はいつも温かい人だった。

「お、お義父さん……うっうっ……お、お義父さんが……ぐすっ……お義父さんが、す……すき……お義父さんが、うっ、うくっ、お義父さんが…好き、好き…うっ…お、お義父さんが……」

「あぁ……わかった、わかったよ奈津美さん……」

このまま、義父の胸の中で、雪のように解けてなくなってしまいたい……。



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