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ドアの隙間
第6章 長い夜。
「落ち着いた?」
私から離れ、顔を覗き込む義父に黙って頷いた。
「帰ろうか」
「あの……悟史さんは」
「なぜか電話に出ないんだ、忙しいんだろう。電車もなくなったし、今日は泊まりだな」
「……そうですね」
「奈津美さん、靴はどうした」
「え……あぁ、それがその……ヒールが折れてしまって……」
「そうか、……おぶって行くしかないな、さあ……」
背を向けて屈む義父に戸惑ったが、冷えて痛む足で歩くのはとても無理だった。
「すみません、お言葉に甘えて」
「うん、……よいしょっと。……ははっ、軽い軽い」
ふわっと浮いて広い背中に背負われた。落ちないように両腕を前に回し、身体をすっかり義父に預けた。
「奈津美さん」
「はい」
「クリスマスケーキを買って帰ろうか」
「……ケーキ食べたいな」
「よし」
この前は手を引かれて歩いた。今日はおんぶ。人の視線を恥ずかしく感じながらも、目を閉じた私は幼子に返り、頼れる父親の感触を初めて味わっていた。
「奈津美さん」
「はい」
「奈津美さんがいないと、あの家は寒くてしょうがないよ」
「えっ?」
「何処へでも迎えに行くから、携帯は忘れないようにね」
「……はい」
確認してみると、義父からの着信はたくさんあったが、夫からはなかった。
「お義父さん」
「ん?」
「ありがとうございます」
「なにが?」
「なにもかも」
「家族じゃないか」
「……えぇ」
ずっと家族でいたかった。
私達は三ヵ所のコンビニを回ってクリスマスケーキを探した。ようやく手に入れたのは、1パック二個入りのショートケーキだった。
外は雪がちらついていた。
「コーンの粒を残さずに飲むのが難しいんだよ」
義父は立ち止まって真上を向き、さっき買ったコーンスープの缶を口につけて振っている。
「お、お義父さん諦めてください、私、落ちそう」
義父にしがみついた。
「く、首が苦しい……」
「ご、ごめんなさい」
「ははっ、嘘だよ」
楽しかった。そして嬉しかった。
少しずつ下がっていく私の身体を「よいしょっと」と言いながら跳ね上げる度、私は「お義父さんがんばれー」とおどけてみせた。
雪はやまない。
路上に落ちては解ける今夜の雪を、永遠に忘れないだろう。
「寒い?」
「いいえ、ちっとも」
私から離れ、顔を覗き込む義父に黙って頷いた。
「帰ろうか」
「あの……悟史さんは」
「なぜか電話に出ないんだ、忙しいんだろう。電車もなくなったし、今日は泊まりだな」
「……そうですね」
「奈津美さん、靴はどうした」
「え……あぁ、それがその……ヒールが折れてしまって……」
「そうか、……おぶって行くしかないな、さあ……」
背を向けて屈む義父に戸惑ったが、冷えて痛む足で歩くのはとても無理だった。
「すみません、お言葉に甘えて」
「うん、……よいしょっと。……ははっ、軽い軽い」
ふわっと浮いて広い背中に背負われた。落ちないように両腕を前に回し、身体をすっかり義父に預けた。
「奈津美さん」
「はい」
「クリスマスケーキを買って帰ろうか」
「……ケーキ食べたいな」
「よし」
この前は手を引かれて歩いた。今日はおんぶ。人の視線を恥ずかしく感じながらも、目を閉じた私は幼子に返り、頼れる父親の感触を初めて味わっていた。
「奈津美さん」
「はい」
「奈津美さんがいないと、あの家は寒くてしょうがないよ」
「えっ?」
「何処へでも迎えに行くから、携帯は忘れないようにね」
「……はい」
確認してみると、義父からの着信はたくさんあったが、夫からはなかった。
「お義父さん」
「ん?」
「ありがとうございます」
「なにが?」
「なにもかも」
「家族じゃないか」
「……えぇ」
ずっと家族でいたかった。
私達は三ヵ所のコンビニを回ってクリスマスケーキを探した。ようやく手に入れたのは、1パック二個入りのショートケーキだった。
外は雪がちらついていた。
「コーンの粒を残さずに飲むのが難しいんだよ」
義父は立ち止まって真上を向き、さっき買ったコーンスープの缶を口につけて振っている。
「お、お義父さん諦めてください、私、落ちそう」
義父にしがみついた。
「く、首が苦しい……」
「ご、ごめんなさい」
「ははっ、嘘だよ」
楽しかった。そして嬉しかった。
少しずつ下がっていく私の身体を「よいしょっと」と言いながら跳ね上げる度、私は「お義父さんがんばれー」とおどけてみせた。
雪はやまない。
路上に落ちては解ける今夜の雪を、永遠に忘れないだろう。
「寒い?」
「いいえ、ちっとも」