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ドアの隙間
第7章 見えてきたもの
私は下を向いたままの夫にムカつき、声を荒げた。

「寂しかったですって? いいかげんにしてよ! 悟史、私いつも隣にいたでしょう? あなたは休日になると自転車で出掛けて、私はそれを気持ちの整理だと思ってそっと見送っていたのよ。止めた方がよかったの? お義母さんが亡くなって寂しかったのはあなただけじゃないわ。私だってそうよ、台所は広くなるし、楽しくお喋りする相手もいない。でも、早く以前の様な明るさを取り戻したくて……。寂しいって何? そんな言い訳やめてよ!」

込み上げる怒りを止められなかった。けれど私は、自分を棚に上げてしまっている事を自覚していた。

「あなたは、自分が子供だから子供は要らないって言ってたわよね。私は親の愛情を知らないから子供を育てる自信がなかった」

「……」

「これから子供が生まれて、彼女が子育てに掛かりっきりになったら、あなた、また寂しいって言い出すんじゃないの? そしてまたどこかへ行くの?」

「待つんだ奈津美さん、まだ何も決まって……」

「私産みます。悟史さんもいいって言ってくれてます。私、赤ちゃん産んだら、悟史さんと協力し合って、愛情をそそいで育てます。子供にも悟史さんにも、絶対に寂しいなんて言わせません」

ふざけるなと、言えるだろうか。夫の父と愛欲に溺れたこの私が、そんなことを言える立場だろうか……

「悟史お前、彼女と一緒になるつもりなのか」

悟史は俯いているだけだった。

「奈津美さんの事を考えた事があるのか!」

義父は私の為に怒っていたが、私はすでに落ち着きを取り戻していた。義父は私をこの家に留め、私との関係を続けるつもりなのか、それとも終わらせる覚悟で怒鳴っているのか。だが、そこに新しい命が息づいているのに、まだ何も決まっていないとなどと誰が言えるのか。もう前に進んでいる、止められない。

「ねえ、悟史、どうしたいのかはっきり言って」

「奈津美……」

「今ここではっきりさせて。その話をしに来たんでしょう?」

夫は膝の上で拳を握っていたが、意を決したのか、ようやく顔を上げた。

「……俺、この人と一緒に、親としての責任を果たしたい」

「だから?」

「俺と……別れてほしい」

「……そう」

私は立ち上がり、バッグにしまっていた離婚届けを悟史の前に広げた。

「奈津美……」

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