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ドアの隙間
第7章 見えてきたもの
「これ、あとは悟史が書き込めばいいだけ。保証人は誰でもいいらしいわ。私にはあてがないから、あなたが誰かにお願いして」

「い、いつの間にそんな……、奈津美さん、待つんだ」

「いいんです」

不思議と肩の荷がおりた。呆然と私を見る関口ミカに対して、怒りも悔しさも感じない。ここで判決を下せるのは私だけで、最良の判断だった。

「悟史、お前ここを出ていけ」

「親父……」

「二度と戻ってくるな」

「孫が生まれるんだよ?」

「バカ野郎っ、 今ここで言う事か! ここは母さんと私の家だ、そうそう簡単に人が入れ替わってたまるか!」

「じゃあ、親父は一人でここに住むの?」

「お、お前ってやつはどこまで……。奈津美さん、落ち着くまでここに居なさい。仕事も住む場所も、焦らずゆっくり探すといい」

義父は息子の軽薄さに怒りがおさまらない様子だったが、私は平気だった。そこに、私のいない家族の形が見えていた。
私は不要だった。 昔も、今も……

「なるべく早く出て行きます」

「悟史、お前は二度とこの家の敷居を跨ぐな」



離婚届けは義父がしばらく預かる事になった。 ミカは帰り際、私に深々と頭を下げ、しっかりと目を合わせた。まだ膨らんでもいないお腹でも、すでに母親になると自覚があるのか、強い覚悟が感じられる。子供に罪はない。両親が揃っている方が良いに決まっている。関口ミカは切り札を効果的に使い、悟史をモノにした。

「奈津美、本当にごめん」

悟史は頭を下げて出ていった。
二人がいなくなると、家の中が急に寒くなった。義父が私の隣に座って肩を抱いた。

「あんな息子ですまない」

「いいんです」

「あの晩、君が帰って来なかった本当の理由がわかったよ」

「はい、悟史さんに電話したら彼女が出て、今お風呂に入っていると………、だから私、こうなる事は覚悟していました」

「子供までいるとは」

「ふふっ、子供には勝てません。それに、今度の事がなくても、遅かれ早かれ……いえ、すでにこの家は壊れています」

そうだ、内側から崩れている。

「あぁ……私のせいだ」

「私達のせいです」

「本当にここを出て行くのか」

「えぇ、清算しないと」

「私を残して?」

「えぇ、そうです」

義父は私を見つめ、唇を重ねようとした。






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