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ドアの隙間
第2章 夏の夜
何事もなかったような顔で朝が始まった。義母が朝食を作り、私が洗濯機を回す。家族四人で囲む食卓は、いつも静かで落ち着いていた。

「夕方から雨になりそうよ」

義母の葉子が言えば、

「会社に置き傘があるから大丈夫だよ」

と、義父の洋が答える。

「俺は駅まで奈津美に迎えにきてもらおう」

「残念、折りたたみの傘を持って行ってちょうだい」

「やっぱり?」

「やっぱりよ」

「はーい」

皆でくすくすと笑い合うダイニングは、今朝も平和な家庭の温かさで満たされている。
食事を済ませた夫は先に家を出た。夫より職場が近い義父は、20分程遅れて玄関に立った。

「いってらっしゃいあなた」

「お義父さん、いってらっしゃい」

「いってきます」

義母と私に優しく微笑み、義父が家を後にした。


洗濯物を干しながら、洗い物をする義母に目がいった。昨夜見た義母の痴態が頭から離れない。今も義母は女として義父に愛されている。
彼女の悶える姿と声が脳裏に焼き付き、私はあれから、朝まで夫を欲しがった。

……

欲しかったのは、義父だったのかもしれない。私は不謹慎な嫁だ。

私達夫婦は、いつまで熱い夜を過ごせるだろうか。

「奈津美さん、そろそろ時間よ」

「はぁい」



家事を済ませた私は、身支度を整え、パート先のスーパーへ向かった。
駅近くのそのスーパーは歩いて15分の場所にあり、レジ担当の私は、そこに勤めて3年が経っていた。きつかった立ち仕事にも慣れ、職場の仲間ともうまくやっていた。ただ一つ気に入らないのは、いやらしい目つきで女性従業員を見る店長。
胸が目立つ私は、舐めるような彼の視線目にうんざりしていた。

「吉村さん、品出しお願いします」

店長が私を呼んだ。

「はい」

お菓子の段ボール箱を手渡しながら、わざと私の胸を箱で押してくる。素知らぬ顔で受け取りその場を離れる。吐き気がする。
55才だと誰かに聞いたが、中年太りで脂ぎったにやけ顔の男が、義父と同じ年齢とはとても思えない。あんな男が一緒に住む事を想像するとむかむかしてくる。

私は義父を思い、心底ほっとした。


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