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ドアの隙間
第7章 見えてきたもの
世の中が慌ただしく動き始め、私は今までと変わらず、義父の出勤を見送る毎日だった。
我が家を見るご近所の目が、好奇の色に変わってきていた。無理もない、素敵な旦那様だと評判だった悟史の姿が見えなくなったのだから。
私は一日でも早くここを去ろうと、新聞のチラシやネットで仕事を探していた。



「奈津美さん、知り合いの本屋にひとり空きがあるようなんだけど、どうかな?」

「フルタイムですか?」

「うん、正社員になるチャンスもあるらしいよ」

「本当ですか? そこに決めます」

「ははっ、連絡先を教えるから明日にでも訪ねてごらん」

「はい、ありがとうございます」



その書店は、義父の通勤途中の駅前にあった。文具コーナーも設けられている広い店内は、明るく落ち着いた雰囲気だった。

「いつから出勤できますか。ウチとしては早い方が助かるんですが」

「ありがとうございます。アパートが決まったらすぐにでも」

義父からの紹介ということですぐに採用が決まり、親切な店長の計らいで近くの不動産屋を紹介してもらった。
これからの生活を考えると贅沢は出来ない。私は職場まで徒歩20分の1DKのアパートを下見した。部屋は二階の角部屋で明るく、住人は学生が多かった。
広いクローゼットと備え付けの家具、電化製品。ここならすぐに生活が始められる。私は早速手付金を支払い仮契約を結んだ。



「決まったんだって?」

「はい、お義父さんのお陰です。ありがとうございました」

「ここにあるものは何でも持って行きなさい」

「ベッドや家電が備え付けなので、衣服以外は殆ど何も要らないんですけど、 あ、このスリッパ、持っていってもいいですか?」

「あぁ、クッションも持って行きなさい。食器も必要だろう」

「ありがとうございます」

悟史に離婚届けを送った。 引っ越し費用やアパートの敷金等は悟史が負担し、夫婦で積み立てていた預金を分け合って新生活の足掛かりにした。
感情に振り回される事なく、すべてメールでの事務的な会話に終始した。


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