この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
ドアの隙間
第7章 見えてきたもの
明日の引っ越しを前に、私は義父と食事に出掛けた。 段ボールが積まれた家は殺風景で、息がつまりそうな日が続いていたので良い気分転換だった。

どこにするかと訊かれた私は、駅前の賑やかな居酒屋を選び、湿っぽくならないように予防線を張った。 まずはビールで乾杯し、店の雰囲気を楽しんだ。

「離婚成立に乾杯だね」

「乾杯です」

周囲には楽しげな笑い声が上がり、私達はその中で笑顔を浮かべていた。

「奈津美さん」

「はい」

「寂しくなるよ」

「えぇ……、意地を張らずに、たまには家族を呼んであげてください」

「………家族か」

――それとも、どなたかいい人を紹介してもらったらどうですか? 以前会った美しい女性に

口に出掛かった言葉を飲み混んだ。あとの事は、どうなろうと私に関わりのない事だった。
きっと慣れる。時間が解決してくれる。孫の成長を家族と共に見守り、温かい団欒を取り戻せば、それが当たり前の生活になる。私だって同じだ。

「奈津美さん、……は君を……てるんだ」

周囲の雑音がその言葉をかき消した。

「ここは唐揚げが美味しいらしいですよ。あ、生ビールお代わりしましょうね、焼き鳥もありますよ」

メニューに目を通す私の手からすっとメニューが無くなった。

「奈津美さん、そばにいてくれないか。失いたくない、愛してるんだ」

「……っ――」

雑音もBGMも聴こえなくなった。私は手を握られ、真剣な眼差しに捉えられた。

「……だ、駄目じゃないですか。駄目じゃないですかそんなことを言っては」

「奈津……」

「き、今日はお祝いなんです。私の旅立ちなんです。それなのに、それなのにお義父さんは一番言ってはいけないことを言って……」

「今しか言えない。ずっと言いたかったんだ」

「いいえ、聞きません」

「愛してるんだ」

私は耳を塞いで首を振った。

「聞こえない、聞こえません」

義父は半泣きになった私を困った顔で見つめ、優しく頭を撫でた。

「わかったわかった。何も言ってない」

ほっとして手を下ろすと、義父は黙って私の両手を重ね、自分の手の中で温める仕草をした。
愛している、と伝わってきた。一時のものでなく、永遠のものだと信じられるような、純なものを受け取った。




/121ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ