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ドアの隙間
第7章 見えてきたもの
明日の引っ越しを前に、私は義父と食事に出掛けた。 段ボールが積まれた家は殺風景で、息がつまりそうな日が続いていたので良い気分転換だった。
どこにするかと訊かれた私は、駅前の賑やかな居酒屋を選び、湿っぽくならないように予防線を張った。 まずはビールで乾杯し、店の雰囲気を楽しんだ。
「離婚成立に乾杯だね」
「乾杯です」
周囲には楽しげな笑い声が上がり、私達はその中で笑顔を浮かべていた。
「奈津美さん」
「はい」
「寂しくなるよ」
「えぇ……、意地を張らずに、たまには家族を呼んであげてください」
「………家族か」
――それとも、どなたかいい人を紹介してもらったらどうですか? 以前会った美しい女性に
口に出掛かった言葉を飲み混んだ。あとの事は、どうなろうと私に関わりのない事だった。
きっと慣れる。時間が解決してくれる。孫の成長を家族と共に見守り、温かい団欒を取り戻せば、それが当たり前の生活になる。私だって同じだ。
「奈津美さん、……は君を……てるんだ」
周囲の雑音がその言葉をかき消した。
「ここは唐揚げが美味しいらしいですよ。あ、生ビールお代わりしましょうね、焼き鳥もありますよ」
メニューに目を通す私の手からすっとメニューが無くなった。
「奈津美さん、そばにいてくれないか。失いたくない、愛してるんだ」
「……っ――」
雑音もBGMも聴こえなくなった。私は手を握られ、真剣な眼差しに捉えられた。
「……だ、駄目じゃないですか。駄目じゃないですかそんなことを言っては」
「奈津……」
「き、今日はお祝いなんです。私の旅立ちなんです。それなのに、それなのにお義父さんは一番言ってはいけないことを言って……」
「今しか言えない。ずっと言いたかったんだ」
「いいえ、聞きません」
「愛してるんだ」
私は耳を塞いで首を振った。
「聞こえない、聞こえません」
義父は半泣きになった私を困った顔で見つめ、優しく頭を撫でた。
「わかったわかった。何も言ってない」
ほっとして手を下ろすと、義父は黙って私の両手を重ね、自分の手の中で温める仕草をした。
愛している、と伝わってきた。一時のものでなく、永遠のものだと信じられるような、純なものを受け取った。
どこにするかと訊かれた私は、駅前の賑やかな居酒屋を選び、湿っぽくならないように予防線を張った。 まずはビールで乾杯し、店の雰囲気を楽しんだ。
「離婚成立に乾杯だね」
「乾杯です」
周囲には楽しげな笑い声が上がり、私達はその中で笑顔を浮かべていた。
「奈津美さん」
「はい」
「寂しくなるよ」
「えぇ……、意地を張らずに、たまには家族を呼んであげてください」
「………家族か」
――それとも、どなたかいい人を紹介してもらったらどうですか? 以前会った美しい女性に
口に出掛かった言葉を飲み混んだ。あとの事は、どうなろうと私に関わりのない事だった。
きっと慣れる。時間が解決してくれる。孫の成長を家族と共に見守り、温かい団欒を取り戻せば、それが当たり前の生活になる。私だって同じだ。
「奈津美さん、……は君を……てるんだ」
周囲の雑音がその言葉をかき消した。
「ここは唐揚げが美味しいらしいですよ。あ、生ビールお代わりしましょうね、焼き鳥もありますよ」
メニューに目を通す私の手からすっとメニューが無くなった。
「奈津美さん、そばにいてくれないか。失いたくない、愛してるんだ」
「……っ――」
雑音もBGMも聴こえなくなった。私は手を握られ、真剣な眼差しに捉えられた。
「……だ、駄目じゃないですか。駄目じゃないですかそんなことを言っては」
「奈津……」
「き、今日はお祝いなんです。私の旅立ちなんです。それなのに、それなのにお義父さんは一番言ってはいけないことを言って……」
「今しか言えない。ずっと言いたかったんだ」
「いいえ、聞きません」
「愛してるんだ」
私は耳を塞いで首を振った。
「聞こえない、聞こえません」
義父は半泣きになった私を困った顔で見つめ、優しく頭を撫でた。
「わかったわかった。何も言ってない」
ほっとして手を下ろすと、義父は黙って私の両手を重ね、自分の手の中で温める仕草をした。
愛している、と伝わってきた。一時のものでなく、永遠のものだと信じられるような、純なものを受け取った。