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ドアの隙間
第8章 ひとり
ようやく読み終えたところに背後から声がした。

「あのぅ、すみません、うちの子が膝に乗っちゃって。読み聞かせありがとうございました。ねぇなおちゃん、その本欲しい?」

「うん、なおちゃんこれ欲しい。ぶたさんの本」

母親に促されて「ありがとう」と言った彼女は、私に手を振って会計へ向かった。

「あ、ママだ」

それぞれの親の元へ駆けてゆく子ども達。

「たくのママは?」

由貴に隠れていた男の子が、つぶらな瞳で私を見上げている。

「えっ?」

「たくのママいないよぉ」

今にも涙がこぼれ落ちそうだ。

「泣いちゃだめ」

たくが私の手を取った。小さく柔らかな手が強く握りしめてくる。

「大丈夫、きっと見つけるからね」

たくの手を引き、店内を捜しまわった。

「たくちゃんのママいませんか?」

漫画や文庫本、雑誌、育児書、文具コーナー。それほど広くはない店内を声を描けながら歩いた。

「由貴ちゃん、探すの手伝って」

「もちろんです」

たくが半べそをかいた。

「ママ……」

「まだ泣いちゃだめ」

「……」

「たく! たく! 」

慌てた様子の女性が、駆け寄ってきた。

「ママ、ママ~。うわ~ん」

「ごめんごめん。たくが本に夢中だったから、ちょっと外で電話してたの」

たくは私がいた事なんて忘れ、さっと手を離して母親に抱っこをせがんだ。

「ごめんなさい。ご迷惑をお掛けしました、ありがとうございます」

母親はたくを抱き上げて深々と頭を下げた。

「いえ、いいんです。たくちゃんよかったね」

「あの」

「はい」

「私もこの子に本を読んであげる事にします。仕事が忙しくてあまり遊んであげられないんです。でも、寝る前とかに本を読んでみようかと思って」

こういう時には何と返事をしたらいいのだろう。

「本当にありがとうございました。たく、一緒に本を選ぼう」

「うん」

たくは絵本を手に入れ、嬉しそうに帰って行った。

「奈津美さん」

「あぁ由貴ちゃん、一緒に捜してくれてありがとう。無事に見つかったわ」

「よかったですね。あの、奈津美さん」

「えっ?」

「さっき、迷子のあの子より、泣きそうな顔してましたよ」

「えっ? あはは、まさか」

「迷子になった記憶でもあるんですか?」

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