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ドアの隙間
第8章 ひとり
「オカケニナッタデンワバンゴウハ ゲンザイツカワレテ オリマセン バンゴウヲ オタシカメ……」

番号を押し間違えてしまった。もう一度。

「オカケニナッタデンワバンゴウハ ゲンザイ……」

もう一度発信した。

「オカケニナッタデンワバ……」

どうして……
あの家の番号を間違える筈がない。五年も使っていたのだ。

どうして……どうして?

悟史の番号も、義父の携帯番号も全て消してしまい、記憶していた唯一の番号が意味をなさない。

「いつでも連絡しておいで」

そう言っていた義父が、番号を変える筈がない。 何かあった。
私は自分の番号を変えた事を後悔した。
あの家はいったい。義父は、悟史は、ミカは……

私はいても立ってもいられなくなり、タクシーを呼び、午前4時にあの町へ向かった。電話番号が違うだけなら、番号を変えただけならそれでもいい。拒否されているのなら、それでも構わない。朝まで待って、義父の無事が確認できれば、黙って帰ろう。すべてを忘れよう。

懐かしい町並みが窓の外に並んでいる。駅前を通り、義父と歩いた歩道を見つめても胸騒ぎはおさまらない。

「あ、その路地を入って次の路地を右です」

「はい」

懐かしいご近所の表札を確かめ、家の前でタクシーを止めた。

「ちょっと待っててもらえますか?」

「いいですよ」

タクシーを降りて門の前に立った。何かが違う。玄関の外に置かれた傘立てや自転車。暗がりでも様子が変わっているのがわかる。表札に目がいった。

『飯田』

えっ?吉村じゃない。庭の方へ行くとやはり違う。義母が手入れした庭木はなくなり、一面芝生に変わっていた。三輪車の側に、小さなバケツやスコップが置いてある。

「……違う」

私はその場にへたり座り込み、呆然と家を眺めた。

どこにいるの? お義父さん

「お客さん、大丈夫ですか?」

運転手の声で我に返り、よろよろと立ち上がった。

「あの、アパートへ戻ってもらえますか?」

「もちろんいいですけど、大丈夫ですか?」

「お願いします」

消え失せてしまった。私の支えが、愛する人が……


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