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ドアの隙間
第8章 ひとり
いつ? どうして?
疑問符ばかりが浮かぶ。義父に何があったのか。会いに来てくれないのではなく、来られなかったのではないか。義父は無事だろうか。
まさか、まさか……
悪い事ばかり考えてしまう。電話なんかするんじゃなかった。知らない方がよかった。でももし義父に何かあったのなら、私はこの先どうやって生きていけば……

毎日が灰色になった。義父と過ごした季節が巡ってくるのに、思い出さえも色を失くした。何を糧に生きていけばいいのか。
寒さが増すにつれ、心には冷たい風が吹き続けた。意地を張って一方的に連絡を絶った後悔が重くのし掛かり、自分を責めた。


「奈津美さん、最近痩せたんじゃないですか?ご飯食べてます? 何かあったんですか?」

「……」

「食べないと、元気になれませんよ」

「そうね」

「それじゃあラーメン、行きますか?」

「……やめとく」

「もぉ~」

「ごめん。次は行くから」

「きっとですよ。ラーメン食べて温まりましょうよ」

「ええ」

不思議なもので、由貴が落ち着いた女性に変わりつつある。恋をしているのだろうか。眩しく輝いている若さが可愛くもあり、羨ましくもあった。

数週間が過ぎ、由貴がまた声を掛けてきた。

「そろそろラーメンどうですか?」

「行こうか」

「やった! じつは今日は彼氏を紹介したいんです」

「やっぱり、最近妙にきれいになったなって思ってたのよ」

「えへっ…、じつはあのアパートの住人なんです」

「えぇっ!」

由貴の彼は同じ大学の先輩で、アパートで挨拶を交わすようになってから、付き合い始めたらしい。私も何度か見かけた事があった。


「どうも、こんばんは」

「こんばんは、由貴ちゃんをよろしくね」

スポーツマンタイプで気の良い彼との会話は盛り上がり、若い二人のやり取りに頬が緩んだ。替え玉をする彼に私は目を丸くして驚き、由貴は目を細める。
店を出てアパートへ向かう道でも、二人教授の真似をして笑い転げていた。清々しい若者達。穢れのない初々しさが眩しかった。

「我が家に着いたー」

「オレ、102号室なんです」

彼が部屋を指差した。由貴も真似をする。

「私は203号室」

「ふふっ、知ってるわよ。私は端っこの201……」

部屋の前に誰かいる。

「あれ? 奈津美さんの部屋の前に誰か立ってますよ」
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