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ドアの隙間
第9章 ふたり
いつも利用している駅の向こう側は、スーバーを中心にした商店街になっている。そこを過ぎると道の両側にマンションが建ち並び、路地に入ると住宅地が広がっていた。

「あのマンションの前で停めて」

義父と共にタクシーを降りると、マンションのエントランスが目の前にあった。

「あの、ここ……」

「ここに住んでる」

エントランスを通って進み、二つ並んだエレベーターの前で待つと右側のドアが開いた。義父が7階のボタンを押した。
その姿がどうにも不似合いで、私は繋いでいた手を見直した。庭で煙草を燻らせていた義父の姿と、エレベーターで自宅に向かう彼の姿になんとも言い難い違和感があった。もう縁側に座って月を眺める事もないのかと、不憫にさえ思えてくる。新たな生活の中で孤独に耐え、やっと今日、一歩を踏み出してくれたのだろうか。ホットケーキをおみやげに……。
重く響いてくる鼓動に耳をすませた。

「寒かっただろう。お茶を入れるから座ってて」

広々としたリビングに通された。義父にお茶を入れてもらうこと自体が落ち着かない。立ったまま周囲に目を配り、見慣れた物がなに一つないことに気づいた。カーテンもソファもテレビも、壁の時計や電話に至るまで、全て新しいものに変わっていた。まるで過去をすっかり切り捨てたかのように、彼は対面式のキッチンに立ってお茶を入れている。

「お待ちどうさま」

「ありがとうございます」

湯飲みと急須に懐かしさが残っていた。ようやくソファに腰掛けると、向かい側に座った義父が湯飲みを手にした。

「煙草はやめたよ」

「え? ほんとですか?」

「ふふっ、凄いだろう?」

「凄いです」

彼はお茶をひと口飲むと、湯飲みをテーブルに置いて腕を組んだ。

「ついでに言うと、酒もやめた。家で飲むのが侘しくなってね。まあ、理由はどうあれ凄いだろう?」

「……ええ、あの、外では飲むんですか?」

お酒も煙草もすっかりやめてしまった義父は、いったい何を楽しみに日々を送っているのか。

「ははっ、実はそうなんだ、たまにね。奈津美さんの上司、ほら店長の堀田。古い付き合いの後輩でね、彼を飲みに誘って奈津美さんのアパートを訊いたんだ。奈津美さんがよく働いてくれて助かってるって礼を言われたよ」

「そうだったんですか」

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