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ドアの隙間
第9章 ふたり
義父はずっと私を気にかけてくれていた。私が連絡を断っても、例えば今の職場を辞めてしまってたとしても、義父は何らかの方法で私を捜し出してくれるに違いない。

「奈津美さん、ここで一緒に住まないか」

聞き違いではないか。私はその言葉を頭の中で繰り返した。

「嫌だと言わないでくれないか。結婚してほしい」

義父は両手をテーブルにつき、深々と頭を下げた。

「私はもう若くない、君は若くて綺麗だ…」

「そんなこと………」

「それに、君は息子の嫁だった人だ」

義父は顔を上げて身を乗り出した。

「それが何か悪いのか?」

周囲から白い目で見られ、後ろ指を指されるだろう。

「私……」

「私のそばにいるのは嫌か」

「いいえ」

「私をどう思う」

「………なにより、誰より大切な人です」

「君のためにここに来た。いや、自分のためだ」

「本当に?」

「君に嘘をついた事は一度もないよ。この家でよければ……」

「どこでもいいんです。あなたがいるなら、あの狭いアパートでも構いません」

彼は少し困った顔で「……あそこは……あのベッドは二人で寝るには狭すぎるよ」と言った。

「………お義父さんたら」

「今すぐ君を抱きしめたいんだ。返事はいつ聞けるかな? 嫌だと言うなら明日もまたアパートを訪ねるよ」

照れの交じった笑顔は私が大好きな彼だ。

「私を、ずっと抱きしめていてくれますか?」

「………それはその、ずっと努力するよ。若くはないからね。でも当分は、君を満足させる自信はある……いや、ずっとがんばるよ」

「………あの、べつにそういう意味では」

「あ、あぁ大丈夫だ……一生大丈夫だよ」

義父は緊張していて、真剣だった。
もう彼を一人にしておけない。彼がいない日々に戻るのはいやだ。

「一緒になろう」

「はい」

「今すぐだ」

素早く側にきた彼は、私をふわりと抱き上げた。

「ま、待ってください。あの、先にシャワーを……』

「うむ、わかった、おとなしく待つとしよう」

額に唇が触れ、私は目を閉じた。抱かれたままバスルームへ向かう途中、「ここが寝室だからね」と、右側のドアを示して彼が笑う。

「はい」

彼を愛している、前よりずっと。
ぬくもりが心を温め、視線が身体を熱くしていく。唇を奪いたい衝動を必死に堪える自分がいた。


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