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ドアの隙間
第9章 ふたり
バスルームを出たら昨日までと違う自分に生まれ変われる。纏っていた背徳を脱ぎ捨て、愛する人と共に明るい明日を見つめよう。
これは夢じゃないんだ。

一人暮らしを始めて一年、男性の視線を感じないわけではなかった。その中の何人かに誘われもしたが、既婚者だと偽ってその場で断ってきた。孤独を義父の“代わり“で誤魔化すぐらい許された筈なのに、私自身がそれを拒んだ。
今はそんな自分が誇らしい。彼への純情を守った自分が愛しい。彼の声や視線や温もりこそが私を生き返らせる。彼だけが……

バスタオルを身体に巻き付け、鏡の前に立った。
この身体に彼が触れる。そう思うと胸が高鳴りため息がもれる。だがその一方で、緊張が増し素肌は強張っていた。

ノックの後、間を置かずに「どうぞ」と声がした。中に入ってドアを閉じると、広いベッドの上に義父がいた。

「待ちわびたよ」

クローゼットを備えた広い部屋には、小さな本棚と電気スタンド置いてある。ベッドの横に立つスタンドの明かりが優しい光を放っていた。

「そこにいて」

義父は手にしていた本を棚に戻して私を見た。

「そのバスタオル、邪魔だな」

義父の意図はすぐに理解できた。けれど強張ったままの身体には羞恥心が加わり、タオルを床に落とす事など出来ない。

「奈津美さん」

「……はい」

「何度も夢を見たよ。今でも夢のようなんだ。目の前に奈津美さんがいるなんて」

私も夢を見た。目が覚める度に泣いた。

「どんな夢だと思う。私の目の前で、ヤツに、スーパーの、あの薄汚い店長を相手にした君が嬉しそうに腰を……」

「お義父さん」

「馬鹿な男だろう私は……。夢に惑わされて、君への嫉妬に苦しむなんて」

義父は情けない顔で悲しく笑った。彼の気持ちが痛いほどわかる。そのつらさに
向き合って初めて、自分の本心を知る向ことになる。あなたでなければ駄目なのだと……

「っ……奈津美。あぁ……なんて美しいんだ」

一糸まとわぬ姿の私を、女神を崇めるように見とれる彼。そのせいか、私の緊張と羞恥心は薄まり、誇らしさが満ちてくる。それを見定めたように、彼の視線は欲情の色を湛え始めた。

「奈津美」

「お義父さん」

「その役はもう辞める」

「……はい、……ひ、洋さん」

「こっちにおいで」

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