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ドアの隙間
第9章 ふたり
職場に親子連れが増えると冬休みに入った事を実感する。児童書コーナーにはクリスマスツリーが飾られ、そこを中心に小さな椅子とテーブルが並べられていた。

11月中旬、夏に行った読み聞かせに手応えを感じた店長が、従業員からの意見を集めた。その中のエプロンを変えたらどうか、という提案に皆が賛同した。

「フェルトでマスコットを作って、マジックテープでエプロンに貼り付けたらどうかな」

由貴の言葉ですぐに学生達が動き出した。休みの日や休憩時間を利用して、手芸好きの女の子や主婦がそれぞれに思考を凝らす。
果物や野菜を可愛らしくふっくらと作った女子学生や、物語に出てくる赤いずきんの女の子やオオカミ、お婆さんや猟師を見事に仕上げた主婦もいた。
見ているだけの男子学生は由貴にどやされ、苦心しながらマジックテープを縫い付ける。
そこにいる誰よりも不器用な私は、マフラーを編んだことがあると言い張っても信用されず、「奈津美さんはこれを着て読み聞かせする係りです」と由貴に任命されてしまった。

「私が言うのもなんですけど、読むの上手になってますよ」

「ほんと?」

「はい、子供達の反応を見ながら読んでるって言うか、なんだか楽しそう。新生活順調なんですね」

由貴が私の薬指をちらりと見た。

「ふふっ、何言ってるのよ。由貴ちゃんが作ってくれたこのブタさんのお陰よ」

エプロンにくっついたマスコットを剥がしてみせた。

「もうね、子供達が追いかけてくるのよ、このエプロン大人気」

「ふふっ、ほら来ましたよ、あ、たくちゃんだ」

以前迷子になって泣いていた男の子が、恥ずかしそうに手を振っている。私は手を振り返し、母親に会釈した。



引っ越してからの生活は幸せそのものだった。街のそこここで聴こえてくるジングルベルは胸をときめかせ、足取りを軽くする。仕事も充実し、なんの憂いも不安もなかった。

「君さえよければ、今度休みを取って役所に行かないか」

レストランでデザートを食べ終えた時、彼は改まった顔で小さな箱を差し出した。

「あの……」

「これを受け取ったら、その瞬間から、私の妻でいる以外に道は無くなるんだが……」

開かれたその箱にはダイヤのリングが輝いていた。


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