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ドアの隙間
第9章 ふたり
「わ、私、何もいらないんです、本当に、あなたさえいてくれたら」

「受け取りたくないと?」

「……いえ」

「じゃあ左手を出して」

まばゆい光を放つリングがそっと薬指にはめられてゆく。彼以外に何も望まなかった私に、彼の想いが形として授けられた。

「もう逃げられないよ」

「あ、あなただって……」

涙声になった。

「私はいつでも側にいるよ」

「……はい、ありがとうございます」

手を繋いで歩いた。星が瞬く澄みきった夜空の下を、夫となる人と並んで歩いた。
これは運命だったのだ。何もかも、こうなることへの布石に過ぎなかった。
自分にそう言い聞かせて納得し、これまでの葛藤を解いていった。幸せになっていい、いいんだ。




「そろそろ行こうか」

「はい、準備OKです」

クリスマスイブを明日に控えた午前10時、提出する書類を整え役所に向かった。少しおしゃれをして、緊張しながら夫と歩いた。
街の賑わいを自分たちへの祝福のように捉え、笑顔で役所の扉を開けた。
順番を待つ間も、私達は人目も気にせず手を繋いだまま椅子に腰かけていた。

「お待たせしました。次の方どうぞ」

「お願いします」

「婚姻届ですね。こちらが、ええっと、謄本……、あの、少々お待ちください」

「はい」

その職員は書類を持って奥のデスクに座っている別の職員に話しかけていた。腕組みをした上司に説明を受けているように見受けられ、私達は書き漏れや書類の不備でもあったのかと顔を見合わせた。そして暫くのやり取りの後、こちらに戻って来た。

「お待たせしました。どうぞ、こちらにお掛けください」

カウンターの隅にある椅子に案内された。

「何か不備がありましたか?」

彼が言った。

「じつは……、大変申し上げにくいのですが、お二人の婚姻届を受理する事はできません」

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